FIPで、1年2ヶ月の生を終えた彼女は、私たち
夫婦に沢山の幸せで素敵な時間やものを与えてくれた。
そんな彼女との記憶を、少しでも残すために、思い付くまま書き散らかしていく。




最初に異変に気付いたのは、避妊手術前の血液検査だった。

彼女は、メインクーンにしては小さく、成長がゆっくりだった為に、手術の許可が出たのは一歳になってからだった。
その、ゆっくりな成長も、おそらくFIPの影響だったのだろう。
血液検査で異常が発覚するまでの1年間は、腸運動に難が若干あったり、角膜浮腫が出た事があるくらいで、至って健康だった。
この不調も、FIPからのものだったのかもしれないが、結局は過ぎた事だ。

最初の採血が3月中頃で、異常があると呼び出されて追加検査になったのが3月末。
その時に、遺伝病の可能性もあるから、大学病院への紹介も準備している事を伝えられた。
4月中頃にようやく結果を聞きに来るよう言われて、そこで初めてFIPの疑いがあると言われた。
大学病院へ行けば、症例も有るため、確定診断も出来るし、専門の治療は受けられる可能性もあると言われた。
夫はどう思ったか分からないが、私には大学病院へ行くことのメリットが感じられなかった。
確たる治療法はなく、発症してしまえば長くはない。
それなら、今まで通り、普通の生活を彼女と送ろうと思った。

ストレスが発症リスクになる為、避妊手術は中止。
完全室内飼いの、単独飼いが決まった。
最大の懸念は、私の出産が近いことだった。
赤ちゃんが家にやってくると言う、これ以上ない環境の変化。
こればっかりは止めることは出来ないので、彼女が受け入れてくれる事を祈るしかない、と話していた。
が、結局はそれも杞憂に終わってしまった。


FIP疑いの診断が出てから、徐々に目に見える形で異変が出てきた。
もともと食の細かった彼女が、より一層食べなくなってきたのだ。
感じとしては、食べたいけど食べられない、若しくは別の餌がいい、といった様子。
お皿からは食べにくいのか、手であげれば食べる。
ちょうど、新型コロナの影響で夫が休業になり、日中も家にいる事で、寝不足とかストレスなのかな?と様子をみていた。
その後、排泄回数も減っている(食事量が減っているので当然なのだが)為、診察を受け点滴投薬で様子を見ることになった。
これが4月末の事だった。
輸液が入って、少し楽になったのか、一旦は回復傾向に見えたが、食事量はさほど変わらず。
左足が踏ん張れない、滑るような症状が出て来た為、連休前に、再度受診。
腹水が出て来ていることを伝えられた。
今回も点滴投薬と、内服薬が追加されて様子を見る事に。
投薬直後は楽になるのか、改善が見えるものの、結局は変わらなかった。
黄疸が出て来て、腹水も触って分かるようになってきた。
食事も、匂いがキツいのが辛いのか、ほぼ毎回えづいてから食べ始める。
が、食べたいけど食べられない。
そんな彼女を見るのが、そして何もしてあげられないのが、辛くて悔しかった。




お別れの前日、明らかに弱っている彼女を見て落ち込んでしまった私を、安心させるかのように彼女は振る舞ってくれた。
そして安心した私が寝た後、症状が出る前は一緒に寝ていた彼女は寝ることなく、部屋の色々な場所を巡っては休む事を繰り返していたらしい。
異変を感じた夫が、一晩中みてくれていた。
まるで、寝たら最後とばかり、だったと。
おそらく、血栓が出来て詰まらせない為の本能的な行動だろう、と獣医さんには言われた。
ただ、私たち夫婦は、最近では滅多に行かなくなった、元お気に入りの場所などを巡っていた事もあって、彼女の思い出巡りをしていたのかも、と思っている。

その夜は何とか持ちこたえた彼女を、朝一番で病院に連れていった。
腹水が溜まっていて、圧迫されているのだろうと。
抜いても一時的なものだから、と最終手段とされ、今回も点滴投薬のみ。
ルート確保が出来ないくらい血管が細くなっていた。

帰宅後、自力でキャリーから出ることも、トイレに行くこともフラフラで、途中でへばってしまう程に弱っていた。
ただひたすら、回復することを祈っていたが、その瞬間はやってこなかった。
仮眠を取っていた夫を起こして、ギリギリ二人で彼女を看取ることが出来た。


私の出産前であり、二人が揃っている、このタイミングでの出来事。
症状に気付いてから半月程度の、急な事だったが、これ以上にないタイミングでの出来事だった。
もし1週間でもずれていてら、夫が休業中ではなく、私だけでの看取りとなったり、そもそも病院に連れていけなかっただろう。

病院受診直後の看取りとなってしまった為、あの時に腹水を無理にでも抜いて貰えれば、彼女は楽になれたんじゃないか、とか、避妊手術を一年待たずにお願いしていれば、もっと早く発覚して、彼女にもっと幸せな環境を整えてあげられたんじゃないか、とか。
他にも思う事はある。
ただ、彼女の行動や頑張りを考えると、全てが正しいタイミングだった、間違ったことはない、そして幸せだった、と言ってくれている様に思える。

だから私は、彼女は天寿を全うした、と思っているし、彼女の寿命であり、不慮の死ではない。




もし、彼女に私の気持ちが伝えられるなら、これ以上ない程に色々なものを与えてくれた感謝と、そして愛情を返したい。

本当にありがとう。
そして、おつかれさま。
いつまでも愛しているよ、らいあ。