日本史の中の世界一 責任編集 田中英道 育鵬社
日本が世界に誇る話題を50ピックアップし、それについて夫々の専門家が解説するという形式を取っている。
それらは縄文土器(世界最古の土器)、出雲大社(古代の超高層建築)、正倉院(現存する世界最古の博物館)、君が代(世界最古の国歌)、江戸(世界一美しい都市)などなどなど。
日本人の勤勉さ、美的感覚、精神の高さなどを称揚して止まない。
自虐史観が蔓延った戦後の風潮に対する反作用のようなところもあると思うが、基本的には日本人はもう少し自国に対する矜持を持つべきだと思うのでこういった本は大いに読まれてよいと思う。
自国の歴史や文化に対する評価というのは色々な側面があって簡単に言い切れるものではないが、卑下する精神からは先祖に対する尊敬とか、未来への希望とかが出て来づらいと思うのだよ。
完結版 新田次郎全集6 弧愁 サウダーデ 新潮社
表題作の他、「カスターニーの実が落ちるころ」、「青きドナウの夢の旅」、「生き残りの勇士」、「富士、異邦人登頂」、「マカオ幻想」、「バンクーバーの鉄之助」、「長崎のハナノフ」を収める。
全体の3分の2を占める大作が表題作で、1893年に初めて日本を訪れ、その魅力の虜になり、日本文化の西洋への紹介者として小泉八雲とならび称されるヴェンセスラオ・デ・モラエスの伝記である。
新田次郎は小説家であり、当然小説家としてのイマジネーションの飛翔はあるのだろうが、かなり律義に文献を渉猟し、事実に基づいたエピソードで紡いで行こうという意志が強く感じられる。
そういった作者の誠実な姿勢というものがよく感じられるし、それはその主人公のモラエスの人となりを鑑みても実に似つかわしい。
また、モラエスを通してこの日露戦争前後の世相というものをうまく浮かび上がらせることにも成功しつつあるように見える。
非常に残念なことに作者の逝去によって中絶してることがなんとも惜しまれる。
小泉八雲とならび称されると書いたが一般の知名度という面ではかなりの開きがあると思う。
その払拭にも力になったと思う、もし完結できていれば。
その他の短編では1970年代後半の日本の海外旅行ブームでわがままな団体客たちに翻弄される添乗員の苦労を描き、添乗員という言葉を廃し引率者にかえ、もっと権威と責任を与えるべきだという主張がある「青きドナウの夢の旅」が特に印象に残った。
何れの作品も1980年逝去の作者の最晩年の作品群である。
挑戦 巨大外資 上下 高杉良 小学館
医薬品、食品、家庭用品大手で米国系グローバル企業ワーナー・パークの日本子会社に1970年転職した有能な経理マン池田岑行は、社内抗争渦巻く生き馬の目を抜くような外資企業の中、その卓抜した能力で30年以上にわたってCFOとして会社を支え続けた。
定年延長による契約最終年に、新しく社長になった野心家の社長のミスジャッジによりワーナー・パーク社は製薬大手のライザー社に買収されてしまう。
池田はあらためて巨大外資企業で働く日本人の困難さを痛感するのだった。
というような話で、完全にワーナー・ランバート社を想定した話だと分かるし、恐らくこの作者のことだからモデルとなる人物もいるのだろう。
30年間を凝縮しようとしているので何かとてもおどろおどろしいような世界のように描かれているが、まあ実態のほとんどは地道な業務の連続だと思います。
サラリーマン向けのエンターテイメントとしてはまあまあなのではないでしょうか?
雨の土曜日 中央酒場
結局一日中雨模様の土曜日になってしまった。
午後から散髪に行って、図書館に寄る。
ここの図書館の前に通称読書公園(正しくないかもしれない)と呼ばれる緒明山公園がある。
ここの大木はなかなか見事です。
写真はその大木と右奥に見える横須賀のランドマークの一つメルキュールホテル(プリンスホテル→ホテルトリニータ→今月よりメルキュール)。
ワンパターンですみませんが、中央酒場へまいります。
そのすぐ近くにはヤジマレコードというレコード(!)屋さんがあります。
その側面に張られているポスターたちの一部。
今日はホッピー2杯と串かつで1,350円。
おまけはそろそろ秋の見頃を迎えるヴェルニー公園のバラ園の向こうに見える第7艦隊。
(見ごろはもう少し先です)
大地と星輝く天の子 上下 小田実 岩波文庫
ギリシャ時代のアテネが舞台。ソクラテスが売名家によって訴えられ、扇動された市民裁判によって死刑となり、刑が執行されるまでの様子を市民の視点に立って描いている。
特にソクラテスの思想云々というのではなく、ソクラテスの起訴というのはたまたまあったトピックスくらいの扱いで、市民の日常を描こうとしている。
恐らく当時の市民、奴隷の生活を想起させる資料もあまりない中、かなりの野心作だと思う。
ただ、そのイマジネーションによる日常があまりに長く冗漫である。
文庫本で上下2巻、800ページをとりたてて本筋のない小説が続いて行くのである。
また人名も覚えにくいギリシャ名でぐいぐいと引き込まれて行く、という話では私にはなかった。
小泉進次郎氏
今朝、田浦駅で小泉進次郎氏が朝立ち(こういう用語の使い方でよろしきや?)していた。
先月の総選挙で世襲批判をかわし代議士になった新人だ。
この田浦駅は一日の平均乗車人数が2,687人と横須賀線では一番少なく、JR東日本エリアでも全1033駅中457番目という首都圏ではかなりマイナーな駅であります。
いまをときめく新人が朝でも閑散とした駅頭に立っている姿は、まあ張り切っている姿には見えました。
写真を撮るのを忘れてしまいましたが、初心を忘れることなく頑張って欲しいものです。
大衆の反逆 オルテガ 寺田和夫訳 中公クラシックス
スペインの哲学者オルテガが1930年に著した物。
1930年という第一次世界大戦後、ヨーロッパの覇権がアメリカ、ロシアという新興国に移りつつあると考える人が多数を占めるようになった時代。
そして同時に都市がどんどん膨張して行った大きな社会変化が大波のように押し寄せていたヨーロッパの人口爆発期。
その都市の膨張は新しい市民階層を生み出し、急増する”大衆”に焦点を当てた着眼点は見事である。
時代的にヨーロッパが世界の中心であり、全てを生み出す場所で、アメリカの勃興についても、基本的にヨーロッパ文明、人口の移動に過ぎないとしている。
EUの出現を予想したようなヨーロッパユニオンのような考えも披露しており、興味深い未来予測ともなっている。
共産主義に関しても当時はかなりの脅威だったのではないかと思うが、彼はばっさりと切り捨てている。
いうまでもないが、興味深いのは、1930年の時点での知識人の考えを2009年の時点で見ることができることが主である。