けものたちは故郷をめざす 安部公房 新潮文庫
久木久三は満州の北部で終戦を迎えるも孤児となり2年7ヵ月間ソ連の兵士と現地に留まっていたが日本を目指して逃走する。
乗った汽車が軍に襲われ汽車で知り合った高と名乗る得体のしれない男と徒歩での彷徨が始まる。
高は凍傷にかかり久三がその指を切り落とすなど凍てつく冬の満州の大平原での逃避行は苛烈を極めるが何とか国府軍のいる街にたどり着く。
高は大量の麻薬を身に着けており、それを久三に託して姿を消すが久三もみぐるみをはがれてしまう。
最後に久三は日本行きのおんぼろ船に乗ることができるがそこで久三を偽称していた高と会い二人して拘束されてしまう。
終戦後の満州からの逃亡を主題とした小説は藤原ていの『流れる星は生きている』や帚木蓬生の『逃亡』などの名作があり一つのジャンルを築いているといってよいだろう。
その中でも久三たちの逃避行は厳しい自然、飢えと渇き、二人の間の関係性の変化が細かく描写されていて秀逸といえる。
安部公房の比較的初期の作品で、常識の範囲を超えた不思議、不条理を描いた作家の作品の中では異彩を放っており物語として普通に面白かった。
一流の作家は多彩な引出しをもっていてそれを高いレベルで実現できるということですね。