自薦短編集 パリの君へ 高橋三千綱 岩波現代文庫 | うみパパのブログ

自薦短編集 パリの君へ 高橋三千綱 岩波現代文庫

Ⅰ(『雷魚』『木刀』『馬』)、Ⅱ(『兄の恋人』『妹の感情』)、Ⅲ(『逃亡ヶ崎』『落ちてきた男』『池のほとりで』)、Ⅳ(『祈り』『セカンド』『パリの君へ』)という構成の短編集。

 

Ⅰは、売れない小説家の気難しい父がいつも家にいる小学校3年生の武が、貧乏で級友たちに馬鹿にされながらも自分と同じような境遇の年長者たちと交流しながら多感な時代を過ごしていく姿を描く一連の作品。

『兄の恋人』は、8歳年上の兄は成績優秀、スポーツ万能で敬愛しつつもコンプレックスを抱く8歳年下の弟が兄の恋人に対して屈折した心情を描く。

『妹の感情』は、何でも話し合えるような仲の良い妹が自分がしばらくアメリカで暮らしている間に自殺を試み、その妹の心情を知ろうとする。

『逃亡ヶ崎』は、銀行の不当な貸しはがしによって一家離散となった男がはずみでその支店長の娘をさらってしまう逃亡劇を描く。

『落ちてきた男』は、生家に複雑な事情を抱えながら苦学して司法試験に合格、検事になるも退職し編集者の見習いになった女性が家庭問題の張本人である実父に思いもかけない形で再会する話。

『池のほとりで』は、Ⅰの『雷魚』の30年後の後日談。

『祈り』は、プロゴルファーになった異母弟を複雑な気持ちで接するトッププロゴルファーの話。

『セカンド』は、家庭的に恵まれず地味なプレーに徹する航行野球選手の物語。

『パリの君へ』は、成功者だと思ってぼくと婚約したがぼくが少年鑑別所に入っていて母親が傷害罪で刑務所に入っていたことを知りパリに旅立った恋人に自分の半生を綴る物語。

 

Ⅰは自伝的な連作となっていますがその他はあまり有機的な関係性は見られません。

それぞれ単独の作品として上々の出来栄えとみえました。

著者は社会の理不尽、不条理に対しての怒りや無力感のようなものも感じられました。