星になれるか 生島治郎 中公文庫
文芸誌の編集者だった越路玄一郎が好きだったアメリカのハードボイルド小説に範をとって新境地を開きプロの物書きとなり、作家や編集者との交流を描く。
主人公の名前こそ違え大筋本人のことを綴ったものだと思われ、登場する作家たちの名前は吉行淳之介、野坂昭如などすべて実名が使われています。
越路が直木賞を受賞した昭和40年代前半位を中心に描かれていて、銀座のバーや山の上ホテルで缶詰めになりながら原稿を進めるさまなどが生々しく描かれています。
吉行淳之介、長部日出雄とタイでの一週間の旅行記はここまで書いていいの、というくらい夜の活動がたっぷりと描写され、また、自身の睡眠薬中毒や離婚についても生々しく綴られています。
ほかの作家たちを実名で出して今なら名誉棄損で問題になりそうです。
越路は上海から終戦で12歳の時に引き揚げてきているが、物語の最後は日中の国交が回復し33年ぶりに上海を訪問する場面です。
記憶の中と変わらぬ姿で街が残っていることに感動し、日本の豊かになったことを認識する美しい描写であります。
今の上海を見たら全く別の感慨を持つだろう。