他人の顔 安部公房 新潮文庫 | うみパパのブログ

他人の顔 安部公房 新潮文庫

実験中に液体空気をもろに顔にかぶってしまい顔全体がケロイド状の醜い蛭の巣のようになってしまった男が、勤め先に長期休暇を取り、奥さんには長期出張と偽りアパートを借りて精巧な仮面を制作し他人に成りすましながら仮面をかぶっている自分への他の人たちの反応を確かめる。

そして妻の許に他人として姿を現し妻を誘惑し関係を結ぶ。

妻に自分が仮面を造って妻のもとに現れた顛末を綴った手記を渡すがとうから仮面のことに気が付いていた妻は男の許を去る。

 

顔が火傷で醜く崩れてしまったことに絶望し、それを仮面をかぶることで克服しようとするが、外見だけにこだわりをもつ男に対して、その人間の本質というものは決して変わらず、他人に成りすまそうとしても近所の知恵遅れの娘には容易に見抜かれてしまう。

顔を変えることによる悲喜劇を扱っていますが、外見にこだわる男の心理を執拗に描き、それはある意味で世の中の風刺にもなっており様々な読み方が可能な重層性を持っています。

なかなかの傑作だと思いました。