自分のなかに歴史を読む 阿部謹也 ちくま文庫 | うみパパのブログ

自分のなかに歴史を読む 阿部謹也 ちくま文庫

第一章 私にとってのヨーロッパ、第二章 はじめてふれた西欧文化、第三章 未来への旅と過去への旅、第四章 うれしさと絶望感の中で、第五章 笛吹き男との出会い、第六章 二つの世界、第七章 ヨーロッパ社会の転換点、第八章 人はなぜ人を差別するのか、第九章 二つの昔話の世界、第十章 交響曲の源にある音の世界、という構成で、歴史学を志した自らの半生を振り返りヨーロッパの中世史についての所感を綴る。

 

著者は1935年生まれで父親を早くに亡くすなど家庭の事情から少年期に修道院で一時過ごしそこでヨーロッパの文明を垣間見興味を持つ。

小樽商科大学の教員であった35歳の時にドイツに留学し古文書を読み込んで中世史に耽溺した学者で後年一橋大学の学長にもなっています。

 

本書では若い時にヨーロッパの歴史に興味を持った経緯や留学時代の逸話が中心になっていて意外と読み易い。

ヨーロッパはキリスト教の文化だと考えられておりますが庶民にまでキリスト教が浸透したのは11世紀になってからだそうです。

 

ヨーロッパでも特にドイツを中心にした北方圏がご専門のようで、当時のドイツでは多くの人が奴隷とは別の職業によって賎視された不自由民がいたという。

その職業とは死刑執行人、捕吏、墓掘り人、塔守、夜警、浴場主、外科医、理髪師、森番、木の根売り、亜麻布職工、粉挽き、娼婦、皮はぎ、犬皮鞣工、家畜を去勢する人、道路清掃人、煙突掃除人、陶工、煉瓦工、乞食と乞食取締り、遍歴芸人、遍歴楽士、英雄叙事詩の歌手、収税吏、ジプシー、洗礼を受けたユダヤ人、バスクのカゴなど実に多彩な職業の人々です。

その理由を解明するというのが著者にとってのヨーロッパ中世史を学ぶ大きなインセンティブになっています。

 

そしてその理由として当時のヨーロッパでは二つの宇宙が存在していて小宇宙と大宇宙から成り立っており自分たちの掌握できな世界は大宇宙と考えていたとします。

そして様々な理由から大宇宙に属されていたと考える職業についている人を賎視したと結論付けています。

賎視とは蔑視とは違って恐れの気持ちが入っているところがポイントかと思います。

歴史を学ぶ醍醐味のようなものを示してくれます。