おかしゅうて、やがてかなしき 前田啓介 集英社新書ノンフィクシ
副題が、映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像。
第一章 米子、第二章 なぜ死なねばならないのか、第三章 早生まれ、第四章 戦中派、という構成で、映画監督岡本喜八の生涯を追うノンフィクション。
岡本喜八は1924年2月生まれで明治の専門部を出て東宝に入社し1958年に初めて監督として映画を撮り、翌年には『独立愚連隊』という出世作を得て名監督への道を歩みます。
筆者は岡本の生年が非常に重要な意味を持っていると考えその戦争体験をくどい程に言及します。
岡本と同学年の1923年生まれは戦死した率の最も高い生年といわれ、いわゆる特攻隊の世代になります。
岡本は早生まれだったために豊橋の陸軍予備士官学校で終戦を迎え、戦場に立つことは辛くも逃れています。
ただ士官学校で250キロ爆弾の不意打ちを食らい多くの同級を亡くす経験をし、戦争体験が体に染みついた戦中派として刻まれます。
岡本の映画にはその戦中派としてのこだわりが色濃く反映されたものになっていてそれは生涯消えないものになっています。
山口瞳の『江分利満氏の優雅な生活』の映画化もしておりますが原作者山口、監督岡本、主演小林桂樹、みな同世代であり、そこには強いこだわりが感じられます。
本書は映画監督岡本喜八とその戦争体験に焦点を当てた特異な構成で、前半部はやや凡長な印象が否めないがその伏線を後半部で見事に回収しています。
残念なのは岡本の監督作品をほとんど見ていないことでこれからの課題ですね。