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課題本から得たインスピレーションをもとにリブリオエッセイを書きます。

3月の課題図書は「ケーキの切れない非行少年たち」(新潮新書)

 

  

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 ↓  今月のエッセイは、以下から・・・ ↓

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ケーキが切れなかったかもしれないアーティスト

                        横須賀しおん

 

 昭和には、”今の時代ならアウトだろ?”と言えるような物がたくさんあった。ほとんどのものは既に社会から消されているが、例外もある。”尾崎豊”の歌詞も、その中の一つではないだろうか?

 

 ”盗んだバイクで走り出し”、”夜の校舎の窓ガラスを壊してまわり”、今なら完全にアウトの世界である。下積みゼロからデビューした彼の人生は、二十歳前後でピークを迎え、それ以降は生き地獄のような人生だった。覚醒剤に手を出して以降は、のしかかかる重圧を跳ね除ける事ができないまま、この世を去った。

 

 近年、”頭のいい発達障害”という言葉が、使われる事がある。少年期の尾崎豊にも、何かしら周りにいる人たちと同じように社会を見れない障害があり、彼自身もその障害に苦しんでいたという可能性も考えられるのではないだろうか? しかし、彼には同時に類まれなる特異な国語能力も備わっていた。彼は”I LOVE YOU”の歌詞を15歳で書いた。それ以外のほとんどの歌詞も、15歳で書いている。売れてから書けなくなったと言われている彼だが、改めて彼の詞を読み返してみると、あそこまで非行少年の胸の内を的確に表現している文章(文学)を彼以外の詞で、ほとんど見つける事ができない。プロの作詞家や小説家も驚くほどの天才的な文学である。一時は”10代の教祖”と言われた彼だが、歌の神様の霊が憑依していた時期も確かに、あったのかもしれない。彼自身も特殊な”頭のいい発達障害”の一人だったのではないだろうか?

 

 障害を克服する事ができなかったのだとすれば病気なのだから、注文に応えて発表できるタイプのアーティストに脱皮する事ができなかったとしても仕方がなかったのかもしれない。下積みなくデビューしてしまった事が結局、彼の人生を短くしてしまったのかもしれない。すぐ売れるようになるものほど、廃れていくスピードも早いと言われる事もある。しかし、尾崎人気はブームではなかった。”I LOVE YOU”は今でも世界中で歌われ続け、”15の夜”は令和でも不滅のカラオケ人気定番曲のままである。アウトなはずだけど消えない、消されない。人は誰しも間違えるものだし、少しはアウトな部分も隠し持ちながら生きている。それが真理であるからこそ、今や伝説となって色褪せない、J-POPの歴史に刻まれ続けているのかもしれない。