いつもなぜか夏の盛りには夏休みがとれず、年休として与えられている
一週間の休みがとれるのは毎年決まってこの時期だ。
とくに今年はひどかった。商売繁盛というべきか
担当業界に再編ニュースが相次いでぶんぶん振り回された。
ちょいとくたびれ気味のへっぽこキシャにとっては
正直辟易気味、精神的にも擦り切れ状態だった。
その間、山登ラーの友人達が計画してくれる山旅も毎回断り続けざるを
得ず、その間にも山欲はふつふつとたぎっており
誰も一緒に休みを取ってくれそうもない平日でありながらも
「槍単独縦走」という無謀計画を実行せずにはいられなくなったのだ。
槍。全ての登山者にとっての憧れの山。
登山を始めてそろそろ4年(だったかな?)。
百名山踏破数もそろそろ20座くらいにはなる。
そろそろ挑戦してみてもよいのでは、と毎年思ってた。
昭文社の地図だって2冊も持ってる。(しかも年度違いで。アホや)
で、行って来ました。
今回は
一日目 上高地→槍沢→槍ヶ岳山荘
二日目 槍穂先往復→西鎌尾根→双六小屋→三股蓮華岳→三股小屋
三日目 三股小屋→双六岳→鏡平→新穂高温泉
というコースです。
。。よく考えたら、高瀬ダムから三泊四日で回る
北アルプス屈指のロングトレイル、
槍ヶ岳裏銀座縦走コース(←長い。総コース60キロ)
の半分くらいのボリュームはあります。
9月16日、相方に車で送ってもらい新宿駅西口へ。夜11時発の
さわやか信州号は予約していたグリーン車が渋滞に巻き込まれ、
差額を返金して普通車へ格下げとなる。
連休最終日のオフシーズン期だからさすがに空いてるけど、車両の揺れは
いかんともし難い。横になったり縦になったりしながら
まんじりともしないまま、
バスはいつのまにか沢渡に着いていた。
初めての上高地は薄曇り。時折青空が覗くが、山々の穂先は
みな雲の中。
「昨日の夜ひどい雨が降ったけど、これから天気よくなりそうだよ」
という、ビジターセンターのおっちゃんの 言葉に期待と不安を抱きつつ、
早朝の上高地の森の中に踏み出す。
大量の団体客が下山してくるのとすれ違いつつ
川の流れにそってひたすら歩くこと4時間あまり。
・・・さっきから気になってるんですが
いつまで経っても上り坂になりません。
いくつめかの山小屋を通過したところで軽い朝ごはん。
不意に「すみませーん」と声をかけられる。
「これ、良かったら食べてもらえませんか。食べきれないんで。」
見ず知らずの人におにぎりをもらってしまう。
このメガネの中年男性とは、今後の山行を共にすることになった。
横尾山荘を通過したところでようやく山道らしいのぼり道になる。
さっきのおにぎりおじさんを抜いたり、抜かされたりを
繰り返しているうちに、なんだか空模様が怪しくなってくる。
槍沢ロッヂを過ぎ
川原沿いの道を抜け、
きつい登りに差し掛かるともう大粒の雨が降ってくる。
カッパを上下着込み歩いていくのだが
一向に次のポイントが見えてこない。
おにぎりおじさんにもずいぶん前に抜かされた後、
背中すらも見えないほど離されてしまった。
こんな感じの道が延々と続き、雨はほぼ横殴りの状況になってきた。。
かなりきつい岩場の道に差し掛かる。
本来だったら今日の目標となる槍の穂先を見ながら
上っていくことのできるはずの道だが、
目の前は牛乳のような霧が立ち込める。
周りには当然人っ子一人いない。風も強くなってきて、急な
岩肌を手でつかみながら歩かなければならないほど。
横尾までの平坦な道のツケを一気にに取り返すかのような
急坂が延々と続く。
ふと「締め切り直前までさぼっていたため、
締め切り数日間が修羅場と化す」
といういつもの状況がふと頭に浮かぶ。
山に来てまでこの状況かよ。泣きたくなる。
雨具は着てるが手袋はびしょびしょ。ほとんど這うようにして
坊主が岩を抜け、殺生ヒュッテの分岐を抜ける。
槍ヶ岳山荘への最後の急登には
岩肌に親切に「山荘まであと○○メートル」の
表示があり、
ゴールへのカウントダウンをしてくれるのだが、
この極限状態ではそれすらも逆に辛い。
しかし、着いた。突風のなかよろめきながら山荘の
戸を開ける。
槍ヶ岳山荘は収容人数 650人という北アルプスでも有数の
大箱なんですが、それはどうよ?という対応が結構目立った。
例えば、嵐のなかたどり着いた客に対して
「はい?今から泊まるんですか?」
的な対応はないだろ。
取り違えトラブルを恐れてるんだか知らんが、
全身ずぶ濡れの雨具やザックカバーや靴を、
「乾燥室には絶対もちこまないで」
という張り紙がそこらじゅうにベタベタ貼ってあるのもどうよ。
じゃあ一体どうすんじゃい。雫がしたたる状態で
部屋に持ち込めというのか。
山荘は取り違えには責任を持ちません、
と表示するか、目印用に番号札や
洗濯ばさみを貸し出すなりすればすむ話じゃん。
みんな無視して干していたが。
悪天候の中での疲れと寒さと、山荘を吹き倒す勢いと
なりつつある外の嵐も相まってすっかりテンションも下がる。
乾燥室であのおにぎりおじさんと無事再会。
「心配しちゃったよー。大丈夫だった?」
と声を掛けられ少し和む。
しかしこんな天候では、明日はもう降りちゃおうかなああ、
的な気分が高まる。同室の単独行のおばさんは大キレットに
行くそうだが、それもこれもこの大嵐が収まらなければ
なんともなるまい。
談話室で暖をとりながらビールを一気飲みして
ふて寝する。八時半。