一部②です。
廊下を歩いていたユスルの杖が、非常階段から降りて来たチャシクの足にぶつかります。
チャシクに『屋上に上がる階段はどこですか?』と、尋ねるユスル。
チャシクはユスルに自分の腕を握らせて屋上へ連れて行きます。
屋上に誰かいるか?と、尋ねるユスル。
手探りしながら柵を乗り越えるユスル。
その時、チャシクとユスルの姿を見かけて後をついて来たジンモクが『ユン・ユスル!そこで何をしているんだ?』と、声をかけます。
こっちに来ないで!と言うユスルを見て『お前、俺が見えないのか?一つも見えないのか?』と、驚き心配するジンモク。
『そうよ!見えないわよ!それを確かめに来たの!?嬉しい!?何であんたが心配するの?私は嬉しいわ。目が見えなくてどれほど嬉しいか。あんあたのキモイ顔を見なくてすむし、ゴキブリがウジャウジャしてるみたいな楽譜を見なくてもいいから。気分は最高よ!嬉しいわ…すごく嬉しいけど…目が見えなくなって良かったと思ってたけど…弾けって。お母さんはそれでもピアノを弾けって!目が見えなくなった私にピアノを弾けって!もっと一生懸命に弾けって!!どんな母親がそうなのよ!?』
そう叫んで泣き出すユスル。
ユスル…と、声をかけるジンモクに『これは全部あんたのせいよ!10年前あんたが私の母さんをバカにした日!あの日から母さんは変わったのよ!あんたさえいなければ…!』と、叫んで指の練習道具を放り投げます。
『もう全てに疲れたの。ピアノを好きなフリをするのにも…あんたを憎むのにも疲れた。あんたも私がいる世界はウンザリでしょう?私もそうよ。だから私は…もう全部終わらせるの。元気でね、ソ・ジンモク。』
そう言って…
手を離し、落ちていくユスル。
『ユン・ユスル!』と、驚いて駆け出すジンモク。
ところが!
ユスルが屋上だと思っていたのは駐車場でした
どうせそんな事だろう…と、見透かしていたチャシクは屋上でなく駐車場にユスルを連れて来ていたのです。
『私を騙したのね!?』と、怒るユスル。
『どうだ?騙された気分は?気分サイアクだろう?お前の母さんも、さっきお前が言った事を聞けば、全く同じ気分だろうな。ピアノが好きなフリをしてお母さんを騙していたんだろう?騙したのはお前が悪いんだろう?騙されていたのはお母さんだ。お母さんのせいにするな。あいつのせいにもな。止めて悪かったな。死んだ方が良かったみたいだな。』
そう言って行ってしまおうとするチャシクに『おい!お前、空気が読めないのか!?』と、怒鳴るジンモクですが、お前こそ目が見えない子に花なんて持って来て…と、言い返されてしまいます。
立ち去る時、ユスルが投げ捨てた道具を拾い上げて、じっと見つめるチャシク。
家に帰る道すがら、母に女の子を助けた…と、自慢げに話すチャシク。
それじゃああんたはその子の命の恩人ね!と、嬉しそうなチャシク母。
でも、何であんたは屋上に行ったの?と、聞かれてチャシクは『何となくだよ。タバコでも吸いに行ったと思ったの?絶対にタバコなんて吸わないよ~!分かってるだろう?俺は母さんが心配するような事を絶対にしないって事!』と、答えます。
『分かってるわよ。他の誰よりもね。』と、ポンポンとチャシクの背中を叩く母。
二人が外に出ると、雨が降っていました。
折り畳み傘を取り出し、広げようとした母ですが…
ポーンと傘が壊れて道に落っこちてしまいます。
それを見て、笑い出すチャシク。
『ロケットみたいだ!涙が出るくらい笑える!』と、涙を拭います。
『あの壊れた傘が俺みたいだから…。俺はどうしたら良いんだ?母さん。運動を取ったら何にも残らないのに…。俺が持っていた唯一なのに!取り上げるって言うのか?セコイぞ!!』と、空に向かって叫びます。
『そうよ!セコイわよ!何でそんな事をするのよ!』と、同じく空に向かって叫び…
泣きじゃくるチャシクを抱きしめる母。
一方、学校に戻る準備をするユスル。
あなたは何も心配しないで、ピアノだけに集中しなさい…と、一方的に「ああしなさい。こうしなさい。」と、話し続ける母。
『はい。』と返事をしながら、ユスルは今までの事を思い出します。
チョン先生にレッスンを二時間延長するように頼んだから練習に励みなさい。
手を怪我するから自転車には乗ってはダメ。
車酔いなんてすぐに良くなるから、車の中でもしっかり楽譜を見なさい。
そんな母の言いつけを『はい。分かった。やれるわ。』と、全て受け入れてきたユスル。
チャシクに『ピアノを好きなフリしてお母さんを騙していた』と言われた事を思い出します。
学校について行って授業やノートをとったり、全部お母さんが手伝ってあげるから心配しないで…
そう話し続ける母に『お母さん、話があるの。』と、ユスル。
あれから、何もかもやる気を失ってしまったチャシク。
ボンヤリと日々過ごす息子に、母はチャシクの父親の事を話し始めます。
母と男性が並んで映っている写真を見せられるチャシク。
その人が父親だ…と言われても、すぐには信じられません。
その人は100年に一人現われるかどうかと言われている天才ピアニストのヒョン・ヨンセだ…と、ネットにアップされている記事を見せる母。
『俺がこんなに凄い人の息子だって!?ありえない!』
『ありえるわよ!あんた、いつも自分の指はスラリと長くて運動する人の手じゃないって言ってたでしょう?』
スマホの着信音は「エリーゼのために」だし、子どもの頃パク・シニャンがドラマでピアノを弾いているシーンを見て涙を流していた…
そう母に言われて『うわ~!鳥肌が立った!俺は親父に似たんだな!!』と、すっかり自分は天才ピアニストの息子だと信じて大喜びするチャシク。
『例え父親に1%しか似ていなかったとしても、あんたは普通の子より10倍は優秀なのよ!だから、あんたは自分がゴミだとかお終いだとか言うんじゃないわよ!分かったわね!?』
『うん、分かった!ところで、親父は俺が息子だって知ってるの?』と、尋ねるチャシク。
別れた後に妊娠している事が分かったから知らない。
チャシクが生まれた時も、彼が凄い人で私はあまりに惨めで…恥ずかしくて会いに行けなかった。
そして、今は…と言いかけた母の言葉を遮り
『俺が恥ずかしいんだろう?自分でもそう思うよ。ちょっと腰を痛めたからってワンワン泣いて落ち込んで。俺だって恥ずかしくて親父に会えないよ。』と、俯くチャシク。
チャシクの顔を覗き込み『ビジュアルはあんたの方が良いわ。あんたは、まだ自分がどんな人なのか分かっていないけど、母さんは分かってる。あんたは私の息子だと信じられないくらい良く出来た子なのよ。父さんに似て。』と、その頬を撫でてやる母。
もっと傲慢に、自分らしく生きなさい。
お父さんから受け継いだ遺伝子が優れた才能をくれたんだから。
棒高跳びはその中でも最も些細なことだ…と。
『母さんのいう事が本当なら、俺が新しい道を見つけて、恥ずかしくないくらい凄い人になったら…その時は、親父を探してもいい?』と、目を輝かせるチャシク。
『もちろん!』と、笑顔を見せる母。
母に、自分一人で学校に行く。
見えないからと24時間ずっとお母さんに頼っているわけにはいかない…と言うユスル。
一分一秒たりともあなたの側を離れないから、心配しないで。
お母さんは大丈夫だから…と、母。
『私が大丈夫じゃないのよ!今まで私のせいでお母さんは自分の人生を諦めてきたでしょう?もう見る事も出来なくなった。このままでは、お母さんの人生は無くなってしまう。
私は生まれて初めて、私が選択して私が決めた事をお母さんに話しているの。だから今から話す事をたわ言だと言わないで尊重して、お母さん。
私は学校で一生懸命頑張る。勉強も一生懸命して、必ず卒業する。そして…ピアノをやめる。この目でお母さんが望むところまで行けない。
負け戦をするのはイヤよ。だから、ピアノをこの時点で諦める!』
ユスルが母にそう宣言していた頃…
チャシクは嬉しさのあまり大声を張り上げながら、夜の街を駆け抜けていました。
そして、やって来たのはある建物の前。
そこにはヒョン・ミョンセのポスターが飾ってありました。
チャシクはポスターを見て『似てる!メッチャ似てる!!』と、嬉しそうに自分の手を見つめます。
『父さん、もうすぐ会いに行きます!』そう言って…
ポスターの父の手に自分の手を重ね『ピアノ、会えて嬉しいよ。これから、よろしく頼むぞ!』と語りかけ…
『父さんの息子、チョン・チャシク!ピアノを始めます!!』と、誇らしげに宣言するチャシク。
チャシクがピアノを始める事を決めた時…
ユスルはピアノをやめる事を決めたのです。
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一部は、なかなか削る所がなくて長くなってしまいました。
次からはもう少し纏めていきたいと思います^^
それでは、長文を最後までお付き合い頂いて有り難うございました
画像お借りしました。