今年は年度初めに新型コロナウィルスの影響による休校があったため、例年より夏休みの宿題が少なかったように思います(その分、夏休み自体も短かったのですが…)。その中で、いくつかの選択肢から読書感想文を行うことに決めた5年生の男の子(ハルヤくん・仮名)と一緒に文の内容を考えました。


ハルヤくんが選んだ本は『飛ぶための百歩』(ジュゼッペ・フェスタ、2019年、)。今年の課題図書になっているようで、彼は「なんとなく選んだ」とのこと。私も読んだことがなかったため、10分ほどかけてザッと読むことに。


○ハルヤくんが捉えた主人公の変化
私がなんとなくあらすじを理解したところで、早速内容作戦会議スタート。まずはハルヤくんからあらすじを聴き(登場人物が複数名いたため、誰が主人公なのか・どういう人間関係なのか捉え切れていなかった様子。けれど、細部の出来事をとてもよく覚えていた)、「心に残っている場面」と「この本で作者が伝えたかったと思うこと」を尋ねてみました。登場人物の関係性については私のほうでフォローすることに。

主人公が目の見えない「ルーチョ」という男の子であることを理解したハルヤくん。「最初、ルーチョは自分のことしか考えていなかったように思う。ルーチョは、友達はいっぱい作ることができるんだけど、目が見えないことを理由にして、他の人の気持ちに気付けなかったんじゃないかな」という解釈を語ってくれました。そして、「仲間とかと協力し、自分だけではできない経験をした」「ワシの雛を助けたことで、少し周りの人に気付けるようになった」と、ハルヤくんなりの視点からルーチョの変化に着目することができました。


○ハルヤくんの体験との結びつき
ハルヤくんがこのような読みをしたことには、きっと理由がある…。そう思った私は、ハルヤくんだからこそ書くことができる文へと深めていくために、こんな声かけをしました。

「『協力』や周りの仲間を考えるというところが、ハルヤの素敵なところだと思うなぁ。前、お迎えで学校から学童へ一緒に帰る時、『駅伝が好き』って話していたよね。『仲間が待っていてくれるから、仲間と一緒だから楽しいんだ』って。そう思えるのって素敵だなぁって思った。俺(ゆーだい)はわりと1人で活動することが好きだから、素直に尊敬するよ。そんなハルヤらしさを感想文に入れると、きっとグッと良い文になると思う。ハルヤ、サッカーやってるじゃん?ルーチョみたいに、最初は『自分が!』って思ってたけど、何かの経験を通してハルヤ自身が変化したなぁって思ったこと、ある?

少し踏み込んだ質問だったため、どんな反応が返ってくるか内心ドキドキしていましたが、ハルヤくんは「うん、あるよ!」と言って自身の経験を語ってくれました。

「オレ、前はサッカーの試合とかで、1人で下を向いてドリブルしてたの。でもね、それだと相手に取られたり、うまくボールを出せずに試合に負けたんだよね。そんな時に『キャプテン翼』を読んでたら『1人の失敗はみんなの責任』って言葉が出てきたの。連帯責任、自分のせいでみんなに迷惑かけちゃってるのかな〜って思った。それからは、顔を上げて、みんなにパスを回すようにした。そうしたら試合にも勝てるようになった!


そんな彼の語りを聴いているうちに、私もなんだかジーンとしてしまいました。当初「読書感想文って、こんな本だったってことを書くから、自分のこととか書いちゃダメなんじゃないの?」と語っていたハルヤくんでしたが、今や単なる本の説明にとどまらず、物語を自分自身の生と結びつけて解釈しているのです。


○ハルヤくんの語りから見えてきた感想文のテーマ
そんなハルヤくんの語りを聴いているうちに、私自身の中で「人は1人で成長するわけではない」という言葉が生まれました。そして「もし違ったら言って欲しいんだけど」という前置きをしつつ、ハルヤくんが語った言葉を整理して共有しました。

「協力しないとできないことを通して人は変わっていく」
「人って一人で成長するのではなく、周りの人とたすけあい助け合いながら変わっていく」

ハルヤくんも「そうそう」と頷き、この辺りの言葉を文のまとめにすることになりました。
↑こちらが2人で考えた構想メモです。ハルヤくんが語った言葉を聴き取って私が書きました。


○まだ実現されていない未知のものを共創造するということ
もしかしたら、今回の関わりは作文指導やファシリテーションの観点から「ハルヤくん自身が考えて書かなければいけない」「大人が出しゃばり過ぎ。黒子に徹しなければいけないのでは」という指摘を受けそうな気がします。しかし、それではハルヤくんがモヤモヤを抱いていた「1人で成長する」という発達観・教育観に陥ってしまう気がしました。
そんな思いから、今回のハルヤくんとの読書感想文構想においては、まだどちらの側にも生まれていない未知のもの(今回の場合、「ハルヤくん自身の〝らしさ〟が滲み出るような読書感想文を書く」というミッション)を真ん中にして、「コドモーオトナ」「教えるー教わる」という一方向的な関係性を越えて、対話をしながら予測不可能性に満ちたプロセスを共に進んでいくというイメージを大切にしました。もちろん今回に限らず、日頃意識していることでもあります(うまくいかないことも多々ありますが)。

○「個」の結果から、「共に育つ」プロセスへ
この読書感想文構想づくりから数日経った夏休み明けのある日。ハルヤくんを学校へお迎えに行き学童保育まで一緒に歩く道中で、「今入っているチームね、5年生のチームで上手い子が6年生のチームに引き抜かれちゃうんだ」という話をしてくれました。

・チームの中にある勝利至上主義
・そのせいで5年生のチームの人数が足りなくなりハルヤくんたち5年生チームの子たちがプレーする機会が減ってしまうこと
・6年生チームに引き抜かれた子たちはまるで捨て駒のように扱われ、点を取ったら即座に交代させられること
・一方、5年生の上手い子たちにポジションを奪われた6年生たちは見せしめのように説教されてしまうこと

このようなチームの状況について話してくれたハルヤくん。自分がプレーできない不満ではなく、6年生チームに召集されてしまう子たちのことを慮り「これじゃあ、まるで点を取るための人形だよ…」という言葉で辛い胸の内を話してくれたところに、彼の優しさが溢れているなぁと感じました。と同時に、「(自分たちは)点を取るための人形」という言葉を言わせてしまうほどハルヤくんたちを追い込む状況を作ってしまっているオトナたちに憤りを覚えました。「なにそれ、そんな酷い状況なんだね…。それはコーチたちがおかしいよ。同じようにこどもたちと関わる立場にある人として、それは許せない!」と素直な気持ちをハルヤくんに伝えました。

あくまでハルヤくんの話を聴いた限りですが、もはや1人ひとりが人間として尊重された上で良さや違いを持ち寄って成長し合う「チーム」ではなく、オトナが求める結果のためにこどもたちの集団が解体され、個々人が決められた通りの能力を身に付けることが「成長」と見做されるような雰囲気が漂っているのではないかと思われます。

拡大解釈にはなってしまいますが、このようなチームの雰囲気に違和感を抱き、「『個』や『結果』ではなく、もっと仲間たちと協力し合うプロセスやその中での育ち、そしてそのような要素を含んだサッカーそのものを楽しみたい!」というハルヤくんの切なる願いが、彼の語りの中に込められていたのだなぁと感じました。この部分をご覧いただいた上でもう一度冒頭からハルヤくんの語りを中心に読んでいただくと、より彼の思いが響くかと思います。


もしかしたら彼の感想文は、この先「個」の「結果」を求める眼差しに曝され、「選抜されるー選抜されない」「文章力があるー文章力が足りない」「字がうまいー字が雑」などといったオトナたちの「評価」を受けることになるかも知れません。ともすれば、そのような「評価」が妥当なもの・もっともらしいものとして見做され、彼が抱いている思いは「取るに足らないもの」と切り捨てられてしまうかも知れません。だからこそ、ハルヤくんとの対話から生まれたものを記録として残し、発信できたらと思って今回ブログにまとめました。

最終的にハルヤくんの読書感想文が出来上がったのか、どんな形にまとまったのかはわかりません。けれど、彼が伝えたかった思いは確かに語られ、受け取りました。


「協力しないとできないことを通して人は変わっていく」
「人って一人で成長するのではなく、周りの人とたすけあい助け合いながら変わっていく」


読書感想文を読んでハルヤくんが自らの生と結び付けながら考え・語りを生み出したように、今度は我々が、ハルヤくんから投げかけられた問いについて自らの生を震わせて考える番なのかも知れません。