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よこけんの右往左往

「よこけん」こと、 ミュージカル俳優、横沢健司のひびを綴った日記です。

 『ビリー・エリオット』の千秋楽から、一週間が過ぎた。一緒に舞台に立った子供達は、みんな普通の小中学生に戻ったのだろうか。中には、ビリーロスになったり、燃え尽き症候群になっている子もいるかもしれない。まあ、なるとしたら子供達より大人達の方に多そうだが。


 『ビリー・エリオット』について思いを馳せる時、やはり子供達の事を思わずにはいられない。ビリーもマイケルもデビーも、トールボーイもスモールボーイもバレエガールズも、彼らの素晴らしい才能無くしては成立し得ない舞台だったからだ。

 オーディションから含めれば、一年を優に超える時間を、かなりの割合で『ビリー・エリオット』に捧げたはずだ。彼らの才能と努力と献身に、ありがとう、お疲れ様と言いたい。


 そして中でも、やはり「ビリー・エリオット」の存在は欠かせない。彼ら五人のビリーこそ、本当に強烈な存在だった。なにせ、あまりにも普通に舞台を背負うものだから、つい忘れがちになるのだが、彼らはまだ十歳〜十五歳の少年だったのだ。自分なんて、その位の歳には、棒を持って鼻を垂らしながら駆け回っていた頃だ。

 五人のビリーは、それこそ一年を超える、超一流のスタッフによるレッスンを受け、タイトルロールとしてあの大舞台を見事に支えてくれた。本当に、日本では特に類を見ない事だと思う。

 一つ面白いと思うのは、その五人の個性が、まるで違ったところだ。海外スタッフがオーディションの段階で、わざとバラバラにしたのだと思う。中にはきっと、五人に匹敵する才能の持ち主も居たかもしれない。でも、キャラクターをバラけさせる事を優先して、今回の五人に白羽の矢が立ったのではないだろうか。それくらい、各々が強烈な個性を持った少年達だった。

 完全にプロとしての技術と心構えを持ち、大人と同じ次元で舞台に臨んだカズキ。バレエの技術はピカイチで、踊りだけで観客を魅了する事が出来るコウセイ。甘いマスクと迸る情熱で、映画のビリーが飛び出して来たかのようなハルト。後発ながらもメキメキと実力を伸ばし、デビューの頃には他の四人を圧倒するほどだったリキ。そして、お休みには虫を採るという、子供らしさを残したまま完璧にプロの仕事をしたサクヤ。

 まったく被ることのない、本当に奇跡的な個性の集まりだったと思う。


 また、その奇跡に輪をかけているのが、彼らが成長期真っ只中であるという事。背が伸びたり声変わりしたり、自然の摂理であり、普通なら喜ばしい事だが、こういう現場においては、そうでない時もある。

 だがしかし、そういう事も含めて、舞台上以外でもドラマチックな所が、この作品の魅力になってもいるのではないだろうか。


 十年も経てば、彼らも僕の身長をとっくに超え、筋骨隆々で髭も生えたりし、ガールズも妙齢の立派な女優さんになったりして、再会しても全く分からなくなっている可能性が高い。

 本当にこの公演期間は、彼らの少年少女時代の一瞬の輝きに触れた瞬間だったのだなと思う。そんな貴重な時間を共に出来た事を、一人の俳優として、また二児の父として、誇らしくもあり、喜ばしくもある。

 彼らにもう一度こう言いたい。

 お疲れ様。そして、ありがとう。