しかし一方、ジョギングをするにはとても気持ちいい気温だ。天気もいいし、残りの数回、理想的な環境で名古屋城を走れそうだ。
天気がいい日が続くとなると、こいつの出番はもう無くなりそうだ。
こいつとの出会いは、博多時代にさかのぼる。そもそも、僕には傘を持ち歩く習慣がないのだが、こいつとは長い付き合いになった。
八月は晴天の日が多く、雨の気配を感じることは微塵もない日が続いたのだが、月末、迫る台風の影響もあってか、突然天気が崩れた。
ほとんどの場合、急な雨が降っても劇場で傘を貸してもらえるので、いつも通りそれで対処しようと思っていたのだが、その日は劇場を出て数分後にゲリラ豪雨が降り始めるという間の悪さ。この時すでに帰京まで一週間を切っていたと思うが、あまりの雨の勢いにびっくりして、コンビニに飛び込んで傘を買った。
この傘は、たとえ出番がこの日しかなくとも、帰京の際には博多座に寄贈していこうと思っていたのだが、帰京当日に雨が降り、コロコロとお土産で大荷物ながら、一緒に飛行機に乗ることになった。
それからしばらくして大阪への移動の日。この日もちょうど天気が優れず傘の必要性を感じたが、使い慣れた傘ではなく、博多から持ち帰ってきたコンビニ傘に、自然と手が伸びていた。ただこの時はまだ、大阪公演が幕になれば、梅芸に寄贈して帰るつもりだったと思う。
そこから九月、ジョギングもコンスタントに出来ないほどの曇天模様が続く。コンビニ傘も名前テープが擦り切れるほど大活躍し、この頃には既に何の模様もない量産型の傘に、愛着を感じ始めていた。
おそらくもう、名古屋の街ではこいつの出番は無いだろうが、大千秋楽後は、一緒に新幹線に乗って、横浜の我が家に帰りたいと思う。