米軍再編合意の裏側
在日米軍再編問題で、日米の合意達成に貢献した米側のキーマンはリチャード・ローレス国防副次官だった。
米国務省での外務、防衛担当閣僚による5月1日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の最終合意は"儀式"にすぎなかった。
本当のヤマ場は4月下旬、額賀福志郎防衛庁長官が訪米してローレス副次官ら、続いてラムズフェルド国防長官と行った会談である。
その結果、焦点とされた在沖縄米海兵隊のグアム移転経費の問題は、日本側の負担を59%(約61億ドル=約7千億円)とすることで決着した。
だがグアム移転は在日米軍再編の一部分だ。実は、日本側が負担する「総額は260億ドル(約2兆9500億円)」とローレス副次官は記者会見でくぎを刺した。
日本を米軍の戦略に緊密に組み込み、しかもその費用の8割以上を日本に負担させるらつ腕ぶりを示したローレス副次官。
だが、日本では彼の経歴などはほとんど知られていない。複数の国際情報筋によると、ローレス氏は1972年から87年まで、米中央情報局(CIA)工作部門のキャリア要員だった。
CIA時代、外交官を装って東京に駐在したことがある。日本の警察、公安関係者に知己が多く、日本の国内情勢にも通じていたのだ。
CIAを退職した年、「USアジア商業開発コーポレーション」という投資・コンサルタント会社を設立。
大統領の実弟ジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事との親しい関係をテコに、日本、韓国、台湾の企業の同州への投資、さらに同州産品の輸出促進といったビジネスにかかわってきた、とフロリダ州の地元紙は調査報道で伝えている。
2002年、国防副次官補(その後副次官)に就任。イラクヘの自衛隊派遣をめぐっては「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と陸上自衛隊の派遣を要求して、強硬派ぶりを印象付けた。
日本の負担総額が約3兆円に達することについても「それは日本の責任だ……米側負担はグアムでのわずか40億ドル」と妥協しない構えを示した。
それに対する日本側の反応は奇妙だった。安倍晋三官房長官は「その中にどういう種類のお金が含まれているか承知していない」ととぼけた。
また額賀長官は「大ざっぱな米国流」とごまかした。だが1カ月半前の3月12日、日経新聞は、日本側経費は政府試算で「3兆円を超す」と伝えた。知らないそぶりは極めて不自然だ。
ともあれ、日本人の心理を読んだローレス副次官の演出は巧みだ。ワシントンを訪問した横田めぐみさんの母、早紀江さんを国防総省に招いて懇談したのもその一環。
拉致問題は本来なら国務省の任務のはずだが、国防総省玄関で、ローレス副次官が横田さんを出迎えたのだった。
春名幹男「米軍再編合意の裏側」
(共同通信特別編集委員)
世界と日本
《随時掲載》
キーマンは元CIA要員
横田さん招く演出も
2006年5月6日付け
高知新聞夕刊