民家の間に住んでいると、どこからともなく風に乗ってとどく食べ物のにおい。

油で熱されるにんにくの香ばしいかおり。パスタに変わるのだろうか。
玉ねぎが茶色く炒められていくときのにおい。
お昼時にはソースのにおいだろうか、焼きそばのにおい。
お魚が焼けるにおい。

各家から放たれるにおいをじっとかいでみる。

生活臭といわれるにおいが駆逐され、
無臭世界へと変わり、その代わりに人工的な美臭がもてはやされている現代日本において、
換気扇からはなたれる料理のにおいは、ひとが住み、そこでは数々の生活が息づいているということを直に伝えるものだと思う。

そんなにおいをかくだけで、食事にありつけないわたしまでもが、食卓を想像してうれしくなり、
なぜだかほっとする。

そして、夕時に自分の家にむかうにつれてくっきりとただよってくる晩御飯のにおいに
理由もなくこころ踊らされ、今日はなんだろうか・・・と楽しみにしながら玄関の戸を開けていた
幼少の頃の自分の姿もまた思い出される。

においひとつで、幾多もの記憶が引き寄せられていく不思議。



いまはもうすぐお茶の時間。
夕飯にしてはやや早いきもするが、スパイシーなカレーのにおいがしてくる。
一瞬、作業の手もとまり、カレーのにおいに集中してしまう。

この時期、暑くて食欲が落ちてしまうものだが、このカレーのにおいをかぐと、
どうもカレーを食べたいと思ってしまった。

わたしは今晩なにを食べようか。