魂の貴石〜アレキサンドライト〜
これは絵本のお話。
アレキサンドライトは小さな女の子です。おじいさんに連れられお出かけの途中。パジャマ姿でウサギのぬいぐるみを抱えています。
「おじいさん、どこへいくの?」
「それは行ってからのお楽しみ」
と言って教えてくれませんでした。
アレキサンドライトは、ロシアのバイカル湖の近くに住んでいます。
パジャマのまま列車に乗り、不自然さを感じもしつつ、おじいさんに連れられて極東へ向かっています。
バイカル湖には古来から言い伝えがあって、
満月の夜、月明かりの照らす先に、秘宝が沈んでいるという伝説がありました。
アレキサンドライトはその秘宝は宝石なんじゃないかしら?と思いました。おじいさんにそう話すと、黙ってアレキサンドライトの話を聞いていました。
一日中汽車に揺られ、終点の駅に着くともう日が暮れて月が東の方向に現れました。
おじいさんは言いました。
「あの月が真上にくるまでに湖の端へいくぞ」
「今回は雲が出なければいいが」
おじいさんとアレキサンドライトは湖の端にある小屋で満月が真上になるのを待ちました。
湖の真ん中へ行くと、おじいさんはハンマーで氷の薄い所を叩き小さな穴を開けて、アレキサンドライトをその穴へ落としました。
「おじいさん何をするの?」
「こうするしかないんだ」
と言って、アレキサンドライトを沈めようとしました。
ちょうどその時、満月の光が真上にきてその穴の上を照らした時に、アレキサンドライトの姿が成長して、子供から美しい女性に変わりました。
「お前さんの本当の姿は、バイカル湖に眠る魂を宿した貴石。満月の光を浴びて成長する宝石なんだ」
「この秘宝は12年に1度、この場所で水浴びをしないと生きていけないんだよ」
「アレキサンドライトよ、よく覚えておきなさい。そして、光を浴びるときは無防備になってしまうから、ここには信頼できる人と一緒に来るんだよ。」
「ひとりでは帰れなくなってしまうからね」
と言いました。
おじいさんは「もう次は一緒に来られないだろうからね」といって悲しい顔をしました。
そう、これは絵本の中のお話。
美しい娘となったアレキサンドライトの噂は瞬くまに広がり、その美しさをを一目見ようと、異国から訪れる人がいるほどでした。
美しき宝石のように見るものを魅了し、そして時には権力の象徴として、アレキサンドライトの奪い合いが始まるほどでした。
最終的には皇帝にまで献上されたアレキサンドライトは、幸せとは言えませんでした。
12年後、また湖へ行く時期になりました。
アレキサンドライトは、おじいさんに会いたいと思いましたが、おじいさんはもうこの世にはいません。
おじいさんはここは絵本の世界だと言っていたけれど、何でそんなことがわかったのだろう。
アレキサンドライトはいまひとりで列車に乗り、あの湖の端の小屋へ向かっています。
「わたしの本来の姿ってなんだろう」
船で湖の中央まできた時に、思いました。
月光を浴びながら、本来の姿になると願って湖に沈むと、アレキサンドライトは緑色の宝石になりました。
宝石となって、湖の奥深くに沈んでいきました。
「魂の宿る宝石」
湖の底には、幾千もの魂が眠っています。
アレキサンドライトは思いだしました。
アレキサンドライトはやっと、本来の姿に戻ることができました。
おしまい
