存在のすべてを 塩田武士
平成3年12月塾帰りの少年が誘拐される
別の場所で4歳の男児が誘拐された
前代未開の二児同時誘拐ー。
その後少年の方は無事保護された
4歳男児は…
3年後突然祖父母の家に現れた。
そして30年後、4歳だった彼は画家になっていた。
あってはならない誘拐事件
犯人未解決だが被害者達が無事で保護された
警察、新聞社、事件に関わった人達の執念を追う
誘拐された4歳男児が、何故3年後突然現れたのか?
勿論誰かの手助けによるもの
それは誰か? 誘拐犯の一味?
謎は膨らむばかり
男児の成長と共にその謎の3年間が徐々にに見えてくる
描く事が好きだった彼は30年後売れっ子の画家になった
美術界の人間関係、大学の上下関係、画廊と画家と
本書の世界は横にも斜めにも広がる
どんなに素晴らしい作品でも
才能だけで生きていけない時代があった
だけどどの時代でも本物を見極め応援してくれる人がいてくれる事に救われる
しかしその本物を製作するのは、並々ならぬ努力や鍛錬、周りの協力や理解がいる
そして芸術は終わりがない
本書のダ・ヴィンチの言葉
芸術に完成はない。あきらめただけだ
一方この事件を追う定年間近の新聞記者
昨今の新聞、若者はネット検索で満たし、老人は文字が細かく読み辛いと言って新聞購買数は減るばかり
先が見えるこの業界に、
犯罪報道は「自分たちと縁遠い悪人たちによる出来事」で終わってしまう
でも現実は被害者も加害者も皆人間
「人間を書きたい」と、記者は言う
誰かの手で狂わされた人生でも、成人すればそこからは
自分自身が責任を持って進まなければならない
本は自分自身の愚かさ未熟さを気づかせてくれる