夜なべって、最近聞かれなくなった懐かしい言葉の一つだね。

小学校だったか、中学校だったかで習った歌に、窪田聡作詞・作曲の、「かあさんの歌」があったね。

 

♪かあさんが 夜なべをして 手袋あんでくれた

木枯らし吹いちゃ 冷たかろうて せっせとあんだだよ

ふるさとの 便りはとどく いろりのにおいがした♪

 

という歌詞だった。

 

わしらが、この歌を習った頃は、どこの家庭でも、母親が夜なべをするのは当たり前と言う時代だったよ。

改訂新版 世界大百科事典によると、

 

「夜なべ (よなべ) とは、夜間に家事を行うこと。

ナベとは,夜食用の鍋にちなむといわれる。

オナベ、ユウナベなどともいうが,夜分の仕事という意味で夜割(よわり)と呼ぶ地方もある。」

 

とある。

 

江戸時代初期の慶安御触書には、

「男は作をかせぎ,女房はおはたをかせぎ,夕なべを仕」

と書かれていて、農民の夜なべは古くからあったんだね。

 

農村の夜なべ仕事としては、稲こき、もみすり、わら仕事、糸繰り、苧績(おうみ)などが主だったそうな。

 

稲こき(稲扱き)とは、刈り取った稲の穂から籾もみをこいて落とすこと。

もみすりは、石臼などを使って、もみ殻を取り除く作業。

わらしごと (藁仕事) は、脱穀した後の藁を使って、縄をなったり、蓆(むしろ)を織ったり、俵や「さんだら」を作ったりする作業。

「さんだら」というのは、米を入れる俵の上下に取り付ける、藁製の円形の蓋じゃよ。

「いとくり」は、主として女性の仕事で、繭から絹糸を編み出したり、麻から麻糸を取り出したりする作業じゃ。

苧績(おうみ)というのは、苧(からむし)の繊維をよりあわせて糸を紡ぐことだよ。

苧(からむし)は、イラクサ科の多年草で、茎から繊維をとるんじゃ。

電灯が普及する以前の、夜なべの時の照明具としては、石油ランプや、松脂などが使われていた。

石油ランプは、ホヤと呼ばれるガラス製のカバーの部分に煤が付きやすく、朝一番にランプのホヤ掃除をしたよ。

農村の夜なべ仕事の一つに、「ほまち田」の耕作もあったね。

 

「ほまち」は、帆船が風を待つ「帆待ち」から、昔の運賃積み船の船乗りが、契約以外の荷物の運送で内密の収入を得ることから来た言葉だよ。

 

正式に届けていない、隠し田での耕作なんだね。

 

夜なべ仕事が終わって、床に就くまえの一杯のドブロクが美味しかったことだろうね。