「はばかる」という言葉は不思議な言葉だね。
二つの、正反対の意味を持っているよね。
辞書によると、一つ目の意味は、
差し障りをおぼえてためらう。気がねする。遠慮する。
用例:「世間体をはばかる」「他聞をはばかる」
等とあり、もう一つは、
幅をきかす。増長する。いばる。
用例:「憎まれっ子世にはばかる」
とある。
「いっぱいに広がる」、「はびこる」という意味も出ているが、これは二番目の意味に近いね。
ところで、トイレのことも「はばかり」と言うよね。
人目をはばかる場所という意味から命名されたんだそうな。
たしかに、あまり人に見られながら用をたす場所ではないよね。
武田信玄の「はばかり」は六畳間の広さがあったと言われているね。
不意の襲撃を受けた際に、すぐ刀を抜いて応戦できるよう、また壁から槍を突き出されてもすぐには届かない距離をとったものなんだそうな。
そういえば、トイレのことを「かんじょ」とも言うよね。
「閑所」とか「閑処」と書くよ。
わしは六歳の時に台湾から秋田に引揚げて来たんだが、秋田の本家の家で「かんじょ」と言っていたのが分からなかったよ。
それに、冬でも「かんじょ」は屋外にあった。
寒くて、長居はできなかったね。
もともとは、人のいない静かな場所を指す言葉なんだから、トイレではゆっくり、のんびり、瞑想に耽りながらひと時を過ごすのがいいんだろうね。