10年ぶりにライブハウスの空気を吸った。
次女と一緒に行ったシンガーズハイのライブ。

シンガーズハイバンド

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開演前から胸の奥がざわざわして、懐かしさと少しの緊張が混ざっていた。

彼らのステージを見ながら思った。
“あぁ、音楽ってやっぱり生きてるんだな”って。
楽しそうに、まっすぐに音を鳴らす彼らの姿がまぶしくて、少しうらやましくもあった。
自分も昔はステージに立っていた。
同じように夢を追いかけて、仲間と音をぶつけ合っていた。
家では「またバンドか」と笑われていたけど、それでも音が好きだった。
音が生きる理由だった。

10年の間に、いろんなことが変わった。
まさか自分が“がん”になるなんて思ってもいなかった。
ローブレナという薬を飲みながら、毎日を生きている。
副作用で物忘れが増えて、少しずつ記憶が薄れていく。
ライブ中も、きっと今忘れないようとしているこの感動をすぐに忘れてしまうんじゃないかと思ったりもした
でも、それでも今は一瞬一瞬を、心に焼き付けるように感じていた。

彼らの歌の中に、昔の自分がいた。
“もしも俺が生まれ変わっても必ずあなたを見つけ出す”
エイトビートの歌詞が流れた瞬間、涙が出そうになった。
家族の顔が浮かんだ。
生まれ変わっても、ちゃんとみんなを見つけられるかな…
そんなことを考えていた。

そして「朝を待つ」。
“夜、一人死にたくなる。生きる意味がわからなくなる。”
このフレーズが胸に刺さった。
あぁ、そうなんだよ。
年を重ね、病気を背負っても、そんな夜はある。
でもステージの光の中でその言葉を聞いた時、
“まだ生きてていいんだ”と思えた。
音が、生きる意味をそっと思い出させてくれた。

隣にいる次女が、ふとこちらを見て笑った。

そうシンガーズハイは、次女が大好きなバンド。

その小さなアイコンタクトが嬉しかった。
10年前はまだ小さかった娘が、今こうして一緒にライブを楽しんでいる。
それだけで胸がいっぱいになった。

ライブが終わって物販へ行った。
「伝わったよ」って気持ちを、せめて形にしたくて。
CDもグッズも、気がつけばたくさん買っていた。
それはただの“お礼”じゃなくて、“ありがとう、生きててよかった”という気持ちだった。

またいつか、もし体が動くうちに、
もう一度ステージに立ちたいと思った。
子どもたちに“生きてる音”を聞かせたい。
自分が音楽を始めた理由を、もう一度取り戻したい。

10年ぶりの音。
忘れていたものが、少しずつ心の奥から戻ってきた夜。
シンガーズハイ、ありがとう。
そして次女、隣で一緒にいてくれてありがとう。
命の音は、まだ消えていない。消えさせたくないんだ。

「10年ぶりの音、命が震えた夜。」