人生、失敗したもん勝ち | フーテンの横チン

人生、失敗したもん勝ち


2016・2・27~愛媛・松山市~
 涙目の萌景を見て「この子なら大丈夫だ」と思った。愛の葉ガールズの定期公演がジオフロントカフェであった。ホームページでは「大切なお知らせ」があると告知されていた。この時期にお知らせ。状況を見て、メンバーの卒業はない。となれば、研修生の正規メンバー昇格しかないと思っていた。推しメンの今後を左右する大切な時間。ちょっぴり緊張しながら、午前中の1部に入った。予想通り、昇格の合否が発表され、結果は残念ながら不合格だった。

 MC中、萌景が司会をしていた山下マネジャーに呼ばれた。先日、昇格試験を受けていたことがファンにも明かされ、合否が発表されることになった。おそらく、こういう場所で発表されることを考えていなかったんだろう。突然のことに驚き、いつも笑顔の彼女の表情がみるみると不安で満たされていった。

 ほかのメンバーも知らなかったんだろう。少しざわつく先輩たちが後ろで見守るなか、萌景は両の手のひらを合わせ、目を閉じて祈っていた。「合格していますように…」。そんな思いがファインダー越しに伝わってきた。シャッター押す自分の指にも力が入った。

 静寂のなか、山下マネジャーが「残念。不合格です」と叫んだ。その言葉を聞き、祈りの手を降ろした萌景は苦笑いを浮かべた。そして、自分の立ち位置に戻ると、彼女の目が徐々に潤んできた。たぶん、自信があったんだろうな…。だからこそ、思いがかなわず、悔し涙という形になって表れた。

 目を潤ませる萌景を撮りながら、推してきてよかったと素直に思った。悔しさがないなら、それまでの子だと思うからだ。自他ともに認める負けず嫌い。同じ研修生の愛美ちゃんにはもちろん、先輩たちにも負けたくない。イベントでの彼女の言動にふれてきて、そう感じてきた。だからこそ、不合格は相当悔しかったに違いない。でも、すぐに気持ちを切り替えて笑顔。いつまでも、メソメソした姿は見せたくない。そんな思いが彼女の背中を押したんだろう。やっぱり、萌景は萌景だな。ちょっぴり安心した。

 萌景のファンだからこそ、思う。不合格でよかったんじゃないかなって。昨年7月22日の宇和島での「ガイヤカーニバル」で愛の葉のイベントに初出演。同8月9日の松山まつりで初めて、愛の葉eggすの衣装を着て、初めてステージに立った。同11月7日のハタダ栗タルト祭りで、ほぼフルメンバーがそろうなか「恋の魔法」で本格的なマイクデビュー。順調にレギュラーへの階段を上がってきた。ここまで、わずか7カ月あまり。自分の推しに一日も早く昇格してほしいという思いはある一方で、研修生のうちに学べることはしっかりと学んでほしいという思いもある。

 萌景は負けず嫌いであると同時に努力家だ。莉緒のようにダンス経験があるわけではない。だから、レッスンはもちろん、自分の家でも1人で練習を重ねてきた。以前「1回見たら、ダンスをすぐに覚えられる」という自分の特技を教えてくれた。ダンスの動画を見る際、スマホの前に鏡を置いて、反転させた映像を見ながら体に振り付けをたたきこむという話を聞いた時、ナイスアイデアだと納得した。1月の初めてのテレビ出演の時には、先輩たちに迷惑をかけまいと、体調不良を隠して生出演したことを聞いた時には、根性がある子だなと思った。

 いつも笑っている萌景を単純に見ていたら分からないけど、その裏で地道な努力をしていることを知ると、ここまでの順調な前進に納得している自分がいる。でも、ライブ中に振り付けを間違えることは少なくないし、物販やふだんの言動でも、まだまだダメだなと感じることがあるのは否定できない。そういう意味では「不合格」という結果は決してマイナスではないし、今後の萌景にとっては苦いけれど、良薬になったんじゃないかなと思う。失敗や挫折が人を成長させるから。

 もう、すっかり気持ちを切り替えたんだろうね。公演後の物販では、満面の笑みを浮かべる萌景がいた。良くも悪くも、イヤなことはすぐに忘れられるのは、萌景の最大の長所だ。「できたと思ったんだけどね…」。そうつぶやく彼女に「次だよ、次」と、ひと言だけ声をかけた。頑張っているのは見ていたら分かる。そんな彼女に「頑張れ!」というのは失礼だと思ったからだ。明るい話をしたかった。風邪で欠席した14日のバレンタインデーイベントの時、ビッグな板チョコを人づてに逆チョコとしてプレゼントしたのだが「大きすぎて、まだ食べ切れていないよ」。満面の笑顔を見て、やっぱり萌景はこうでなくっちゃと思った。

 午後からの2部。萌景は髪型をふたつくくりにしてステージに現れた。昼ごはんも食べて、気分もすっきりしたのかな。1部の時以上に笑っているような気がした。ニューシングル「モノクロ」からスタート。1部にはなかった寸劇や未唯&愛美の「ハッピーセット」の漫才??なども新たにセットリストに加わって、見応えのある内容になっていた。また、1部からの続きで、きよらのケーキづくり後半も。佐々木社長の似顔絵入りケーキになっていた。

 でも、個人的にテンションが上がったのはやっぱり、未唯&萌景のコンビによるダンスだ。HKT48の「メロンジュース」。アイドル音痴の自分でも知っていて、大好きな曲のひとつだ。未唯とともに、萌景はセーラー服を着て登場。衣装の白セーラーは何度も見ているけど、いわゆる学生服のセーラーは初めて。とても似合っていた。

 HKT48のメンバーにも負けないダンスを見せつけた。体を前後左右に揺らす激しいダンスなのだが、萌景はとっても楽しそう。ジャンプする振りつけとかは「虹色マジック」の時以上に高く跳んでいるような気がしたのは自分だけだろうか。とにかく、喜色満面の彼女を見て、シャッターを押すのも楽しかった。

 未唯は萌景の指導係でもある。加入当初から、農業アイドルとしての礼儀やマナーなどを教わってきた萌景にとっては、未唯は特別な先輩だろう。そういえば、定期公演や、えのはうすのイベントも含めて、2人でユニットを組んで出しものをするのは初めてじゃないかな。萌景はもちろん、未唯もなんだかうれしそうに指切りをしていたように見えた。

 元気いっぱいに踊る萌景。笑顔の萌景。目の前にある時間、その1分、その1秒を思い切り、楽しもう。彼女の表情を見ていたら、そんなふうに感じた。この笑顔にほれ込んで、魅了されて、自分は萌景推しになった。どんなイヤなことがあっても、萌景スマイルが癒してくれる。

 同じ研修生の愛美ちゃんは2部から出演。あらためて萌景も前に出てきて、昇格試験の結果が発表された。残念ながら、愛美ちゃんも不合格。萌景は1部で報告を受けていたから、笑顔であらためて事実を受け止めていた。2人は「頑張ります」」と意気込みを見せた。3月にあらためて昇格試験があるという。今度こそ…。2人と同じように、心のなかで合格を願った。

 ぶりっ子ポーズをする愛美ちゃんと萌景。いい表情だね。2人にとっては辛い日になったけれど、この結果をどう受け止め、次に行かせるかだ。自分の好きな言葉は「人生、失敗したもん勝ち」。成功しか知らない人間よりも、多くの失敗を知る人間のほうが強くなれるし、他人にやさしくなれるという意味がこめられている。今後、萌景にも後輩ができる。先輩から学んだことや経験を教えることになるだろう。その時、この日の悔しさが生きると思う。
 なんだかんだいって、萌景はまだ中学2年生の14歳だ。こんな若いころから、こういう貴重な経験をできるのはとても幸せなことだと思う。世間を知らない鼻たれ小僧だった14歳のころの自分と比べたら、萌景はしっかりしているし、輝いている。1カ月後、愛美ちゃんといっしょに笑顔でうれし涙を流す萌景を見たい。2人の笑顔を見ながら、心からそう思った。