3年ぶりの県頂点! | フーテンの横チン

3年ぶりの県頂点!


2015・7・27~愛媛・松山市~
 雨上がりの空の下、20本の人さし指が天に向かって突き出した。全国高校野球選手権・愛媛大会決勝。9回2死走者なし、最後の打者の打球を難なくさばいた投手・杉内が一塁・秋川へ送球すると、マウンド付近へ猛ダッシュした。今治西ナインが次々と集まり、喜びを爆発させた。4対3で逃げ切り、3年ぶり13度目の夏甲子園、そして春夏連続の聖地進出。苦しかった試合をモノにしたからこそ、歓喜の瞬間はたくさんの笑顔で満ちあふれていた。
 久しぶりの高校野球観戦だった。午前中の雨の影響で、予定より2時間遅れの14時30分にプレーボールとなった。2年連続2度目の夏甲子園を目指す小松と今治西の強豪校対決。テレビ観戦じゃ満足できないと思って、坊っちゃんスタジアムへと駆けつけたのだ。新聞社時代には、当たり前のように取材していた高校野球だけど、最近ではテレビ観戦かインターネットで結果を知るだけだった。炎天下で汗を流すのも心地いい。スコアブックをつけながら観戦した。

 投手戦になるかなと思っていたが、1対1で同点の6回表に試合が動いた。今治西の攻撃。2死二塁、山内が左前に運んで勝ち越しの2点目。さらに、守備妨害が重なって2死二塁とチャンスが続く。押せ押せムードのなか、高尾がバットの根っこで、強引に引っ張った。勢いのある打球を三塁手・藤原がさばけずにトンネル。左前に転がっていった。

 打球の行方を見て、二塁走者・山内が勢いに乗ったまま、三塁を駆け抜けた。猛然と足から本塁に突っ込むと、捕手・大上のタッチをかわし、左手でホームを触った。貴重な3点目。相手のミスを確実に突いて、追加点につなげる。これこそ、相手に与えるダメージは大きい。一塁側の大応援団も、得点が入るたびに大きな歓声で響き渡った。

 味方打線の援護を受け、投手陣も踏ん張った。序盤から継投でつなぎ、5回途中からは4番手として、杉内がマウンドへ。右サイドスローで打たせて取る投球を見せた。3点リードの7回には3長短打で2点を失い、1点差まで詰め寄られたが、粘りの投球で踏ん張った。要所を締める投球術で、味方の援護を待った。

 劣勢ムードのなかでも、小松ナインは昨年の夏王者らしいプレーを見せてくれた。4回から先発・松井を継いだ早柏が気迫の投球を披露してくれた。投球を終えるたびに、マウンド上で吠えに吠えた。打者を打ち取ると「ヨッシャー!!」という雄たけびが球場に響き渡る。これぞ、高校野球らしい、気持ちを前面に出したアクション。バックのナインを鼓舞するし、見ているだけで気持ちいいね。

 最後の最後まで行方が分からない、まさに息詰まる一戦となったが、ワンプレーで勝負が決まったと言っていい。9回裏、小松の攻撃。先頭・大上が左前打で出塁。続く高砂の時、強行策に出た。送りバントではなく、ヒッティング。右前へ抜けるかと思われたライナー性の打球を、投手・杉内が体勢を崩しながらキャッチ。飛び出していた一塁走者・大上は戻れずにダブルプレーとなった。これで流れを取り戻し、今治西ナインは歓喜の瞬間へとつなげた。

 負ければ、そこで終わり。ワンプレー、ワンミスが試合の形勢を大きく動かし、結果的にグラウンドにいる両校ナインを笑顔と悔し涙に振り分けてしまう。勝負が決まり、ナインが本塁前に整列。あいさつ後、お互いが握手し、抱き合い、健闘をたたえ合った。真剣勝負でぶつかったからこそ、気持ちを分かり合える。「オレたちの分まで甲子園で頑張ってくれ」。そんな言葉がたくさん飛び交っていたんだろうな。

 闘っていたのはグラウンドのナインだけではない。スタンドの大応援団も、いっしょに勝利を目指して声援を送っているのだ。今治西の校歌斉唱後、小松ナインは三塁側スタンド前へ。最後まで応援してくれた在校生や保護者に頭を下げた。途中で涙を流し、肩を落とす選手もいたが、スタンドからは「よく頑張った!」「ありがとう!」という声があちこちから飛んだ。「感謝の気持ちを忘れるな」。高校野球の多くの監督が口を酸っぱくするほど選手に教え込む言葉だけど、まさにそうだよね。声援やゲキがあるからこそ、ナインはグラウンドで暴れ回れるのだ。

 閉会式を見ながら思った。やっぱり、高校野球っていいなって。1球、1球に魂を込めて、これまで積み重ねてきた練習の成果を発揮する。1球の重みと怖さを知っているからこそ、緊張感に襲われながらも、ナインは気持ちを奮い立たせてグラウンドに立つのだ。優勝メダルを首から提げた今治西ナイン、準優勝メダルの小松ナイン。残酷なほど好対照な表情だったけど、100%の力を出し切った両校ナインはみんな、カッコよかった。
 この日、隣には野球好きの女子高生3人が座っていた。そのなかの1人は初日から毎日、球場に駆けつけて毎試合、スコアブックをつけながら観戦したという。野球が好きなん?そう聞くと「大好きです!見ていて飽きないですから」と目を輝かせていた。日焼け止めを塗りながらでも見たくなる一戦が、目の前にあるんだな。甲子園にも行くの?「まだ分かりませんが、やっぱり応援に行きたいですね」。そうか…。彼女たちと話していたら、久しぶりに甲子園に行きたくなっている自分がいた。