はじめてのすいえい
2015・4・29~愛媛・松山市~
やっぱり、赤ちゃんはかわゆかった。白鳥のひなを観察するため、西堀端にやってきた。前日28日の夕方のニュースで、5羽の卵がかえったという速報を観たからだ。天気予報では曇り、のち雨だったけど、朝起きたら曇りだったので、天候が悪化しないうちに写真を撮りに行こうと決めた。午前9時半前に到着すると、すでにカメラマンがずらり。テレビ局のカメラも並んでいた。浮き島にある小屋をのぞいてみると、ひながお母さんのそばにいた。グレー色で、ふわふわしていた。
この日の狙いは、ひなが泳ぐシーンを写真に収めることだった。午前11時半ごろ、親鳥が立ち上がり、水辺へと向かい始めた。ひな1羽が付いていこうとしたが、怖くなったのか、途中で引き返した。そして、約90分後の午後1時すぎ。小屋の中で、親鳥が大きく羽をバタバタさせた後、立ち上がった。ひなを誘導する行動だったのだろうか。
すると…。4羽が親鳥のそばを通り過ぎ、お外へと歩き出したのだ。ひなた部分へと出ると、また怖くなったんだろうね。ひなは急に立ち止まり、座ってしまった。足元が滑るのを必死にこらえている姿が、またかわいかった。
でも、ここまで来て引き返すことを許さなかったんだろうな。お父ちゃん、お母ちゃんは水辺で再び、羽をバタバタさせて、ひなを「威嚇」。おそらく「ほら、早く来なさい!」と怒っていたと思う。ひなはビクビクしていただろうな…。
そして、親鳥が再び、浮き島に上がり、ひなを誘導。すると、ひなは親鳥のお尻をおっかけるように、水辺へと歩き始めた。その行動を見守っていた観衆からも「おお、ついに入るか!」との声が続々と上がり、テレビ局の女子アナウンサーたちも興奮したように実況を始めた。
4羽のひなは今度は怖がることなく、水辺へとまっしぐら。1羽が途中で転げ落ちたが、無事に起き上がり、4羽ともスイスイと泳ぎ始めた。でも、初めての水が怖くて、泳いでいる間も親鳥に必死についていっていた。天気予報は見事にはずれ、お天道さまが顔を見せていた。暑かったし、気持ちよかっただろうな。約10分間、親鳥といっしょに仲よく泳いでいた。
あれっ?もう1羽は??まだ、ふ化していな4つの卵のところで、ジッとしていた。おそらく、前日28日の夕方にかえったばかりの子。ひなは24時間経たないと、水に入れないという話を聞いたことがある。早朝にかえった4羽とは違い、入水はまだ早いのかな?
ほかのきょうだいたちが気持ちよさそうに泳いでいるのとは対照的に、1羽はまるで水に無関心っていう構図。親鳥が「早く入りなさい」といった行動を取っていたが、まるで動かない。やっぱり、怖いんだろうね。
午後3時すぎ、ついに立ち上がった。ヨチヨチとぎこちなく歩く姿が愛らしい。でも、小屋の出入り口のところで立ち止まってしまった。親鳥が上がってきて、背中を押しながら水辺へと促すが、微動だにしない。
すると、上がってきた1羽のひな(左)が隣に座った。巣には、もう戻らせない、といった行動をしている親鳥の前で、2羽はコソコソとなにやら話している感じだった。「おい、早くしないと、父ちゃん、母ちゃんがカミナリを落とすぞ」「そうなのかな。でも、水が怖いんだよね…」。そんな会話を想像しながら、シャッターを切っていた。
約10分後、ついに橋の上へ。両側から親鳥ににらまれて、もう逃げられない。でも、この位置で立ち止まり、また巣に戻ってしまった。まだ早いのかもしれないな。
何度も何度も親鳥に促され、意を決したんだろうね。午後3時半、再び橋へ。今度はちゅうちょなく歩き始めた。端っこを歩きながら、水辺のほうをのぞき見していた。でも、足元が滑ったのか…。
ポチャッ。頭から落ちて、小さな波紋が広がった。チラッと見えた水かきがかわいかった。
ようやく、5羽すべてが初泳ぎした。最後に入ったひなの元に近づいた親鳥はくちばしでつつきながら「よく頑張ったね。よしよし」と褒めているようすだった。見守っていた4羽のひなもなんだかうれしそうだ。
お父ちゃん、お母ちゃんといっしょに気持ちよさそうに泳ぐ5羽のひなを観ていると、1年前のいまごろを思い出した。昨春、10年ぶりに5羽がかえり、同じような白鳥フィーバーが起きた。残念ながら、2羽が病気で死んでしまったが、残り3羽は元気に育ち、いまでも堀端にすんでいる。
2年連続でひなが誕生し、西堀端もいち観光スポットになった。巣には、まだ卵が4つある。すべて、ふ化すれば、計9羽のひなが誕生することになる。「残りの卵も全部、かえったら、大所帯になりますね。楽しみですね」。隣にいた女子アナがうれしそうに話した。ホントだな。人々に笑顔をもたらす白鳥親子を温かく見守りたいなあ。