どうだ、このどやってなんぼの富士山登ってる感。
七号目、疲れも吹っ飛ぶ景色。
笑っていられるのはここまでだ。
そう、ここからが闘いだった。
七号目休憩中、その先に広がる八号目の山道を目の当たりにして、私はまさかの三度目の沈黙をすることになる。
そこに広がるは道ではなく、ただの岩である。
私の体より遥かに巨大なモンスター岩。モンスターイワ。イワイワイワイワ。ワーイ。
そんな群れのよう。
おや、モンスター達の隙間から先行く登山者の頭がひょこひょこ途切れてつつも見えてくる。
(ってことは道無き道がある。)
横地「…………。」
中山「…………。」
横地「…………。」
中山
……立て!…立つんだ中山!
これが富士山頂までの道のりなのだ…!そんなに甘い訳がない。体調も良くなり、台風接近中の雨風も感じることなく、そう簡単に山頂にいけるわけが無い!
はっ……。
もしやこれは…!
……人生と似ているではないか…!!!
(登る前から無駄に悟り出す。)
さて、ここで私が一人紹介したい少年がいる。
彼は身長130cmほどだろうか。大人の登山者たちの中に一人小さな少年が紛れ込み、やけに目立っているではないか。
いったい、何者…?!
彼は偶然私たちと同じグループにいた。
小学生にしてあまりにも整った彼の横顔と、大人に紛れて山頂を目指すその勇ましき後姿に私は興味しかわかない。
…そして恋に落ちる。
(という展開が無いことを先に断っておく。)
彼は、とても品の良い感じの母と共に山頂を目指していたが、同じ山頂を目指す仲間として、自然に声をかけていた。
よこち「ねえ、疲れたでしょ?」
少年「疲れてません!」
よこち「ねえ、名前はー?」
少年「えいしです!」
(いろんな意味で子供と同じ目線。)
彼と初コミュニケーションを取ったの六合目だ。それから先は彼も含めの登山をすることになる。
少年「森林限界はいつですかね?」
よこち「しんりんげんかい…?」
少年「いわゆる高山の気候によって植物が生えてこなくなる現象のことです!」
よこち「えいちゃん、なんでそんな難しいこと知ってるの?」
少年「本で読みました!」
山道で繰り広げた会話にて、彼はただの山好きではないことが判明した。
まず、その年齢で富士山に登ろうという意志、山に関する知識の豊富さ、そして正しく教育されただろう、その小さな口から飛び出す単語全ては、どこかの博士のようだった。
…彼は10才だという。
昔、私とこの下流とどっちが早いか!と
横地VS川水。といった無限レベルの勝敗つかぬレースにハマり出し、鼻水たらしながらほぼ無心で走り回っていた頃と同じ年齢である。
(後日激しくコケて川水に負けを認めることになる。)
そんな過去を持つ稚拙な私は質問もまた同じである。
「えいちゃん好きな食べ物はー?」
「……ぶどうです!」
…………ぶどう…?
今の子供はぶどうが好きな食べ物なのか…ハンバーグとか、カレーとかじゃないんだ……。
きっと希少価値高い高級なぶどうで糖度の高さも日本一のやつなんだろうな。(←ただの先入観)
そんな会話をしつつも、私は少年に支えられた。
彼がナメクジのように岩を這う姿に、何度と励まされたことか。
体の小さな彼は、私たちと同じ山道を登ろうとも、全身全霊を使うかのようで、エネルギーの消費率は一段と高いことだろう。
それを真後ろから見つめていた私には闘争心たる大量のエネルギーを与えてくれたわけだった。……ありがとう、少年。
そんな感じで私も小さな背中に助けられ、私も登る、登る、登る。みんなで一緒に登ってゆく。
…そんな忘れられない出逢いが実はあったのた。(今思い出すととても心がほっこりする)
えいちゃんは将来登山家かあ~、
と思った。でも彼はきっと、休日は登山が趣味、本業は山を科学する仕事につくのだろう…。(←またもや先入観)
少年、きみの将来が楽しみだ…。
七~八合目に登る道は格段とペースが落ち、気付けば日も落ち、酸素も薄くなってくるため、もれなく体力も落ちる。
精神、肉体、環境…とりあえず全てが悶えだす。
もはや会話をするものはいない。全員が自分と闘いだす。
ただ、ここに無いものはただ一つ。
リタイアだ。
山頂に行くまでの道、
(ゲームムーイ世代のポケモンを参照にしたい。)
『ふじさん が あらわれた!...,』
たたかう どうぐ
ポケモン ▷ にげる
だめだ! にげられない!...,
(ふじさんに使える選択肢はこんな感じ↓)
▷たたかう たたかう
たたかう (どうぐ)
そして、「たたかう」という選択肢をAボタン連打した結果。
ついた…。
寝床に着いた…!!!!
ついたーーーーーー!!!!!!
(無念にも声にならない。)
未だかつて「♪お腹と~背中がくっつくぞっ♪」と、あのだれもが知る童謡がここまで現実的に流れたことはない。
どちらかというと
「♪お腹と~背中がくっつくぞっ↓↓↓↓↓」
といった低音調になる。
夕食のカレーの美味しいこと。
「胃にやさしいもの食べてね~」
ふと、前日に告げられたドクターXの言葉を思い出す。
奇しくも、ご飯やハンバーグを中山に食べていただく。
カレーのルーは飲み物です、の私に豚汁を追加。
きっと胃にやさしいよね?ドクターX ...。
ご馳走様をし、雑魚寝の布団に潜り込む。
いちにのさんで眠れる富士八合目の横地。
この後は
深夜2時に起き、ご来光を目指す。
…はずだった。
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