生きること、生への讃歌
夫婦は、また新しい希望に向かって歩み続けるというエンディング。
史実である主人公の暢さんの死をドラマの中に出さなかった。それは、やなせたかしさんのポリシーと全く同じであった。
あんぱんまんのモデルは、弟の千尋さんだった。戦争で弟の千尋さんを亡くしたやなせさんは、「あんぱんまん」という作品の中で千尋さんを甦らせ、永遠の生命を与えた。
それは、アンパンマンのマーチの歌詞でも同じで「たとえ生命が終わるとしても」の原詞の歌詞を変更した。生命が終わるという表現は、子どもたちに相応しくないと思ったから。
それは、「やさしいライオン」の制作でも同じで、最後のシーンで主人公を死なせない表現に変えた。やなせさんの考えは、一貫している。多くのアニメヒーローの物語の中で悪役は死んでゆく、死ぬまでやっつけてしまう。けれどやなせたかしさんは、悪役であるバイキンマンにすら、生を与えて決して死を与えない。
中園ミホさんは、このやなせたかしさんのこだわりを一貫して朝ドラ「あんぱん」の中で同じように貫き通した。それは、やなせたかしさんへの尊敬であり、愛であり、感謝であり、彼女自身の考えであった。

生きるということ、生きてゆくというメッセージが温かくどっしりと、また沸々と心に響き湧き上がった。ありがとう。勇気をいただいた。暢さんの晩年の演技、特に声が秀悦だった。このドラマの物語は、是非小説にしてもらいたいと思った。
爽やかな朝はまた永遠に続いてゆく。(文:原 洋子)(シェア歓迎、他サイト転載厳禁)

