今日、夜のテレビ番組で、“ヒルズ族”の特集をしていた。
そのテレビをぼんやりと眺めながら
去年垣間見た不思議な世界を思い出してしまった…。

ちょうど去年の今ごろだっただろうか。
このような仕事をしていると、普通の自分の行動テリトリーでは
絶対に行くはずのない場所に行ったりすることがある。
その日、私が六本木ヒルズレジデンスの3?階で行なわれている
パーティになぜかいるのも、仕事でお世話になる人に会うため

だった。
奈緒美の御友達の紹介で話をつけてもらい、

急遽ヒルズで開催されるパーティに招待されたのだ。

“普段見られないヒルズレジデンス、1度は行ってみたいわ~。
どんな素敵なエグゼクティブがいるのかしらん“などと、
単純に好奇心と期待を胸にいだき六本木まで向かう。

クリスマスイルミネーションがまばゆいばかりに光るケヤキ坂の
神々しいまでに光っているヒルズレジデンスのエントランス。
フロントに繋がるインターフォンで、訪問先を告げて、
入口の警備員のお兄さんに軽く会釈をし、中に通してもらう。
このちょっとした優越感。
ホテルの入口のような建物に1歩足を踏み入れると、
都心とは思えない静寂が広がり、

聞こえるのはかすかな音楽と、
コツコツという私のピンヒールの音だけ。

今回お会いするエグゼクティブは、

50歳くらいまでのスーパーエリートなはず。
どんな素敵な御部屋で、どんな素敵な人々が集まっているのだろう。

圧倒的な非日常感を漂わせたマンションのエレベータの中で、

ふと不安がよぎる。
今日は、平日のパーティ。一応、業界関係者として、

それなりに気を使い、上品お嬢様系のファッションに

身を固めてきたつもりである。
もしかして、みんなすごい服着てきちゃってたらどうしよう・・・…。

ドキドキしながら、パーティが行なわれている部屋の

インターフォンを押した。
そして、扉が開かれた。
奈緒美の友達のえりちゃんに案内され、中に入る。

「・・・・?????」

その瞬間、私の不安は無用なものだということに気がついた。
そして、パンパンに膨らんだ優雅なエグゼクティブ・パーティの

妄想は一気にしぼんでしまった。

目に入ったのは、なんとも不思議な光景だった。
広い広いリビングにポツンとあるテーブルの周りに
20代と思われる男性と、なんとも露出度の高い女性が囲んでいる。
その向こうに広がるのは、

見事な東京タワーを中心にした、東京の夜景。

その場を流れているねっとりとした、黒い空気……。
突然現れたアンバランスな世界にしばし呆然としている私・・・…。

「不思議な会でしょ。私もう帰ろうと思っているの」
耳元でささやくえりちゃんの声でふと我にかえる。
えっ!?かえっちゃうのー!?

確かにこりゃ、不思議な会だ。
テーブルの上に乗っていた安い紙パックのワインと、
どこかの惣菜屋のから揚げとおにぎりの残骸を横目に、
“私も帰ろう。”今日の私の使命を忘れ、そう心にきめて
きびすを返そうとした。

だって。私が描いていた、

知的な会話も、極上のワインも、優雅な身のこなしも、

心地よい音楽も、素敵な男性も皆無だったから。

「こんばんは。えりさんの御友達ですか? どうぞこちらへ。」
タイミングわるく部屋の主に見つかった。(当たり前だ)
部屋の主は、まだ32.3歳くらいの若者。
「このたびは、色々ご協力いただけるとのこと、ありがとうございます。
今日はご挨拶に御伺いしました。どうぞよろしくお願いします。
突然御邪魔してごめんなさい。私もえりさんと一緒に失礼いたします」。
そう一気にまくしたて、営業スマイルをニコリ。

「え!?もう帰っちゃうんですか?これからに話しを聞いてもらおう
と思って友人も、呼んでいるんですよ。是非もう少しいてください」。
部屋の主に困惑気味の顔で答えられてしまった。

そうだった。私は今日、仕事だったのよ。
ここで帰ってはまずいのだ。
「ごめんね。」と悪そうに帰っていくえりちゃん。そして取り残された、
この場所で、あきらかに最年長な私。

ふーっとため息をつき、とりあえず営業に専念することにした。
「こんな素敵なところに住めちゃうなんてすごいですね。」
「いえ、ここは家じゃないんだよ。」と答える主の高幡氏。
「?」
「ぼくね、ここ以外に2軒家もっているの。ここはほとんど家としては
使ってないなあ。僕、実はこういうところは性にあわないらしい。」
高幡氏は、24歳で会社を立ち上げ、IT関連の事業で大成功をした
今をときめく若手ビジネスリーダー31歳だった。
「ちょっとこっちへ来てよ」
そう言われ、パソコンの画面の前に連れていかれる。
「このホームページが、あそこにいる鈴木のやつ。
カレ、今話題の投資家なんだよ。」

そこに映し出されたのは、

若干29歳で年間数十億をかせぐファニーフェイス。
奥の女性にかこまれている鈴木さんらしい。

「それから、これが永井さん。この間株上場して、
めちゃめちゃ儲かっているIT関連の企業社長」
テーブルでから揚げをつまんでいる男性を見て

またホームページをひらく。

「こんばんはー永井です。可愛いねーきみ。ここ座ってよ~」と
呂律の回らない口調で自分の隣をバンバン叩いてる。
だらしない姿はどうみても、そんなやり手には見えない。
その隣で、自慢話に話しをさかせている

ネットショップ会社の社長も、べろべろだ。

信じられないけれど、ここにいる男性たちが

一年に売り上げる金額を合計すると、
百億を超えようという金額になる。
更に信じられないことに、

一番年上の永井氏だって私と同い年なのである。
商売ってそんなに簡単だっけ!?

思わずそう思いたくなるような何気なさだ。
不景気といわれている日本経済だけれど、
どういうわけか、ここにいる不思議な人たちには

儲かるようにできているらしい。
私なんて不景気真っ只中なのに。

そしてテーブルのまわりに集まっている女の子たちはみな、冬だというのに
スリップドレスのような露出度の高い服をきて、
髪は“ただ今美容院でセットしてきました!”と
いわんばかりの気合いのいれよう。
話しを聞いていると、現役女子大学院生と、女医さんの卵らしい。
「いやー、おれなんてさ、社長っていってもほんとたたき上げだから。
鈴木なんてボンボンでしょ、永井さんは東大出身エリートだし、
なんて行っても高幡さんもお坊ちゃんだけれど実力もあるしね~

みんなすごいよ。ところでみんなはどういう人が好きなの?
いや、俺なんて数十億稼いでる彼らに比べれば
社長っていってもたいしたことないよね」
さっきからピチピチの女子大生たち相手にぺらぺらとしゃべっているのは、
ネットショップの社長さま。

・・…。ひとしきり自分たちの自慢をして、関係ないことを聞く。
凄い話術だ。でも、そんなカレの話しを目をキラキラとさせて
聞いている女子大生。
「えーーー!?そんな風にいうなんて、なんか私たちを拒否している感じぃ。
私、お金もっててぇ、誠実でぇ、会社やっているような人が好きなんですぅ」と
率直に答える。

相手も相手なら、聞き手も聞き手。
すばらしい需要と供給のバランス関係である。
そんな会話を、感心して聞いていると
高幡氏が話しかけてきた。

「部屋の中ご案内しましょうか?」
ついていくと、リビングから少し離れたところにある部屋には、
真中に予想外のものすごく大きなベッド。
その向いにある部屋には、またもやベッド。
そして洗面所とトイレ。キッチンは生活感がない。

家具らしき家具のない、この部屋の中で

異様に存在感を発揮していたベッド。
一通り部屋を案内してもらってふと脳裏に浮かんできた

この部屋の意味。
ここは女の子たちを呼び寄せる巨大な罠なんだろうか。

「六本木ヒルズレジデンスでパーティがあるの。超エリートがいるらしいよ」
なんて言葉で来る女子大生たちは五万といるだろう。
その言葉でおびき寄せられた彼女たちは、部屋で安い酒と食事を与えられ
その時にいた男性陣に選ばれて、

一夜限りのアバンチュールを楽しむ部屋に
連れてかれるのだ。私の考え過ぎかもしれないけれど。

そう思ったら、テーブルの周りにいる女子大生達が、
ムチムチした子羊に見えてきた。
子羊を狙う成金の若者達。
この不思議な構図がこの部屋の地場をゆがませている。
私が最初にドアをあけたときに感じた黒い空気なのかもしれない。

そんな私の思いとはよそに、高幡氏は目をキラキラして話しを続けた。

「僕らは、こうやっていろいろな人を集めて

定期的にパーティしているんですよ。
面白いやつの周りには面白いやつがいる。
今の世の中って面白くないじゃないですか。
つまらないおやじたちに任せていても、日本は面白くならない。
だったら俺らでなにかしようよって」

・・・でもね、坊や。私はここにいるような人達に、
日本をまかせたくない。
若くして巨万の富を築いたからって、
わかりやすい高層マンションに部屋借りて、
部屋をカジノまがいにして、
女の子たちに囲まれて天下とったような気になって。

ハードはものすごく一流かもしれない。
でも、中のソフトは三流以下。
集まる女も男も、やってることも、出してる食事も、みんなの会話も。
三流以下のものには三流以下のものしかできないのよ。
そう悪態を心の中でつぶやいた。

「色々ありがとう。私帰るわね。」
「え!?」と驚く高幡氏。
玄関まで送ってくれた高幡氏の顔はなんだか寂しそうだった。
その顔は、夜毎繰り広げられるパーティの
無意味さ、むなしさ、をちょっとわかっているような雰囲気でもあった。
お金を使って、部屋を借りて、女の子が集まっても
満たされないなにかを心に抱えている。
「僕は、自分の会社を誰でも知っているような大企業にしたい。
絶対にがんばる。見ていてよ。」帰り間際につぶやいた。

「10年後楽しみにしているわ。さようなら。」私は笑顔で答えて、扉をしめた。
エレベータを降りながら、寂しそうな高幡氏の目を思い出してふと思った。
彼なら、きっと、10年後本当に大自分の会社をもっと

有名にしているかもしれない。
そして、その時にもしも再会したら、
「あのときは、若かったからねぇ。遊び方を知りませんでしたよ」と
笑ってはなしてくれる、素敵な男性になっていることを願って、
ヒルズレジデンスからキンと冷えたケヤキ坂に降り立った。

そんな去年の出来事。
今もまだ、あの黒いねっとりとした気を放つ部屋で、
不思議なパーティは繰り広げられているのだろうか。

少しはみんな、大人になっているといいんだけれどな。
鍋パーティをしているヒルズ族の映像を見ながら
あの部屋から見えてた東京タワーを思い出していた。