最近、夫に話しかけられると、
少し身構えるようになりました。
何か怒られるわけじゃありません。
大きな喧嘩をしたわけでもありません。
ただ、夫が私に話しかけるときって、
だいたい決まっているんです。
「俺の靴下どこ?」
「ワイシャツ、アイロンかけた?」
「明日の朝、早いから」
「今日の晩飯、何?」
……ね。
全部、自分の用事なんです。
私が今日どんな一日を過ごしたか。
パート先で何があったか。
最近、何か困っていることはないか。
そういうことは、聞かれません。
別に、毎日「今日はどうだった?」なんて聞いてほしいわけじゃないんです。
でも。
なんだかただの御用聞になったみたいで。
なんだかな・・・って思うんです。
夫の声を聞くと、次の仕事を探してしまう
先週の土曜日のことです。
朝から洗濯機を二回まわして、
掃除機をかけて、スーパーに買い物に行きました。
帰ってきたら、夫はリビングのソファに座っていました。
テレビを見ながら、スマホを触っていました。
「ただいま」
と言うと、
「ああ」
とだけ返ってきました。
買い物袋が重かったので、玄関にいったん置いて、靴を脱ぎました。
夫は、こちらを見ませんでした。
私は買ってきたものを冷蔵庫にしまって、洗濯物を干して。
ようやく一息つこうと思って、お茶を入れました。
そのときです。
「ようこー」
夫に呼ばれました。
何だろう。
何か頼まれるのかな。
そう思って返事をすると、
「テレビのリモコン知らない?」
……リモコン。
夫のすぐ横にありました。
雑誌の下に、半分隠れていただけ。
「そこにあるよ」
そう言って指さすと、
「ああ、あった」
それで終わりです。
ありがとうも、何もありません。
私は、持っていたお茶を飲みながら思いました。
この人、私のことを何だと思ってるんだろう。
リモコンを探す人?
靴下の場所を知っている人?
夕飯を作る人?
そもそも私は買い物に行ってたのに。
リモコンのありかなんて、知るわけないじゃない。
なんで、そんなことまで私に聞くわけ?
昔は、もっとくだらない話をしていたのに
でも、結婚した頃からこんな夫だったわけではありません。
若い頃は、もっと話していました。
仕事で嫌なことがあったら、遅くまで一緒に話したり。
休みの日には、二人で喫茶店に行ったり。
テレビを見ながら、どうでもいいことで笑ったり。
夫は、あまりおしゃべりな人ではありませんでした。
でも、
私の話を聞いてくれる人でした。
付き合っていた頃、私が仕事で失敗して落ち込んでいたとき。
夫は、駅前の小さなケーキ屋さんでシュークリームを買ってきてくれました。
「これ食べて元気出せよ」
なんて言って。
あの頃は、それだけで嬉しかったんです。
高いプレゼントなんて、いりませんでした。
私が落ち込んでいることに、
気づいてくれた。
それが嬉しかった。
結婚してからも、しばらくはそうでした。
子供が生まれて忙しくなっても、
夜中に二人でアイスを食べながら話したことがありました。
子供が寝たあとの、ほんの十五分。
あの時間が、私は好きでした。
それなのに。
いつからでしょう。
夫婦の会話が、連絡事項ばかりになったのは。
「明日、何時に出るの?」
「日曜日、車使う?」
「夕飯いる?」
「洗剤、買っておいて」
気づけば、私たちは夫婦というより、
同じ家を管理している二人みたいになっていました。
同じ家に住んでいるのに、夫が何を考えているのか、わからないんです。
「別に、話すことないだろ」
一度だけ、夫に聞いたことがあります。
「最近、私たちって全然話さないよね」
夕飯のあとでした。
夫はテレビを見ていました。
私は、できるだけ普通の声で言ったつもりです。
責めたかったわけじゃありません。
ただ、夫がどう思っているのか知りたかったんです。
すると、夫はテレビから目を離さないまま、
「そうか?」
と言いました。
「うん。昔はもっと話してたじゃない」
そう言うと、夫は少し考えてから、
「別に、話すことないだろ」
と言いました。
私は、何も言えませんでした。
話すことがない。
そうなんだ。
夫にとって、私と話すことは、もうないんだ。
胸の奥が、すうっと冷たくなる感じがしました。
私は、その日パート先でちょっと嫌なことがありました。
新しく入った人に仕事を教えていたら、店長から別のことを頼まれて。
あれもこれもと重なって、すごく疲れていたんです。
帰り道には、きれいな夕焼けを見ました。
スーパーでは、久しぶりに昔の知り合いに会いました。
そんな、たいしたことのない一日です。
でも、私は夫に話したかった。
何か大事な用事があるから話すんじゃなくて、
夫だから話したかったんです。
「今日ね、こんなことがあって」
そう言ったら、
「へえ、そうなんだ」
って聞いてくれる。
それだけでよかった。
でも夫は、
話すことがないと言いました。
私は、
「そっか」
と答えて、食器を片づけました。
その夜、夫はいつも通りテレビを見ていました。
私は台所でお皿を洗いながら、何度もその言葉を思い出していました。
「別に、話すことないだろ」
たった一言なのに。
ずいぶん長い間、胸に残りました。
私が黙っていても、夫は困らない
それから、
私は少しずつ夫に話しかけなくなりました。
何を話しても、つまらなそうにされる。
テレビを見ているときに声をかけると、面倒くさそうな顔をされる。
それなら、もういいや。
そう思うようになったんです。
でも、不思議なことに。
私が話しかけなくなっても、
夫は何も変わりませんでした。
朝は普通に起きて、用意された朝ごはんを食べて、仕事に行く。
夜は帰ってきて、夕飯を食べて、お風呂に入って、テレビを見る。
私が黙っていても、夫の一日は何の問題もなく進んでいくんです。
最初は、少し意地になっていました。
私が話しかけなかったら、夫も寂しくなるかもしれない。
「最近、どうした?」
って聞いてくれるかもしれない。
そんな期待が、どこかにありました。
でも、一週間経っても、何もありませんでした。
二週間経っても、同じでした。
夫が私に話しかけるのは、やっぱり何か用事があるときだけ。
「クリーニング出した?」
「明日の弁当、いるから」
「俺の充電器どこ?」
私は、そのたびに答えました。
そして、ある日ふと思ったんです。
私が妻として黙っていても、
この人は何も困らないんだ。
困るのは、家事が止まったときだけ。
ご飯がなかったり。
洗濯物が片づいていなかったり。
必要なものが見つからなかったり。
そのときは、私を呼ぶ。
でも、私が何を感じているかは、気にならない。
そんなふうに思えて、悲しくなりました。
これから先も、二人で暮らしていくのに
子供たちは、いつか家を出ていくと思います。
進学するだろうし。
就職もする。
結婚だって、きっとする。
それは、寂しいけれど嬉しいことです。
でも、そのあと。
この家には、私と夫が残ります。
朝、二人でご飯を食べて。
夜、二人で夕飯を食べて。
休みの日も、二人で過ごす。
そのとき、私たちは何を話すんでしょう。
今みたいに、テレビの音だけが流れるリビングで。
夫はスマホを見て、私は食器を片づけて。
そんな毎日が、あと十年も二十年も続くんでしょうか。
考えると、怖くなるんです。
このまま年を取って、
気づいたら、
夫の顔色ばかりうかがうおばあちゃんになっていたら。
私はきっと、後悔すると思います。
だから、私はまだ諦めたくないんです。
あの頃とまったく同じ夫婦に戻れなくてもいい。
これからの私たちなりに、もう一度、話せる関係になれたら。
そんなふうに思っています。
昨日の夜、夫がテレビを見ている横で、私は少しだけ話しかけました。
「今日ね、パート先でちょっと面白いことがあって」
夫は、いつものようにテレビを見ていました。
一瞬、また「ふーん」で終わるかな、と思いました。
でも。
そのあと、夫が何と言ったか。
そして、私がどう答えたか。
そのことは、また別の記事で書こうと思います。
まだまだ、夫婦のことは難しいです。
でも、50代になったからって、
もう何も変わらないと決めつけたくありません。
実は、夫の返事が変わるきっかけになったのかも、と思ったものがあるんです。
ある人に教えてもらったことを、少しやってみたんです。
難しいことではないし、少しだけ、って。
最初は、こんな普通のおばちゃんに関係あることなの?と思っていましたが、少しずつ、毎日が変わっています。
私が読んだもの、置いておきますね。
