正月ということで、正月らしい江戸川柳をいくつか紹介してみる。

来年の樽に手のつく年わすれ

 

 年越しということで飲んで騒いでいるうち、つい正月用の酒にまで手をつけてしまったという句である。今なら樽というよりは「お祝い用にとっといた高いワイン」とか「正月用の大吟醸の一升瓶」までうっかり年末に飲んでしまった、というところだろうか。

もういくつ上がるとぞうに聞あわせ

 餅は焼いてしまうと保存が難しくなるので、雑煮に入れる餅は事前に誰がいくつ食べるかを聞いて、その数だけ焼く必要がある。火鉢とオーブントースター等、餅を焼く手段の違いはあれど、昔も今も変わらない正月風景である(但しお雑煮に入れる餅を焼く文化圏のみ。お江戸はむろん関東なので醤油仕立ての雑煮に四角い餅を焼いて入れてたはず)。

人間の顔でからだはこたつ也

 厳密に言えば正月に限ったことではないが、いちばん正月に出現しやすい「こたつ人間」。江戸時代のこたつは無論電気ごたつではないが、こたつの中が快適すぎてつい一体化してしまう状況は昔も今も変わるところはないようである。

こたつついでにもう一句。

しいられてあたるこたつはかしこまり

どこかへお客に行き、家にあがって「まあどうぞご遠慮なく」とか言われてこたつをすすめられたときとおぼしき句。普通であれば暖かいこたつにあたってゆるむところを、緊張で手足も伸ばせず固まったまま、というありさまを詠んでいる。