子供の頃は、「孫の手」なるものの存在意義がよくわからなかった。じいちゃんばあちゃんはよくあれで背中を掻いているけれど、そんなものを使わなくても背中に手が届くではないか、と思っていたのだ。亭主は50代のときに自転車で転んで鎖骨にひびを入れて以降、手が背中にうまく届かなくなったようで、「孫の手は必需品だ」と言い出したのだが、自分はまだその年でも、右手を上、左手を下から背中に伸ばして手を握ることができた。つまり背中全体を手でカバーできていたため、まだ孫の手に頼る必要は無かったのだった。
 ところが60代で50肩(詳細は別途)をやって以降、左肩の可動域が狭くなってしまい、背中に手でカバーできない範囲が生まれてしまった。ついに孫の手を必要とする事態になったわけである。孫が居るような年齢(うちはまだまだ居ないが、世間的には居てもおかしくない)になって初めて役にたつようになるとは、なるほど「孫の手」とはよく言ったものである。
 とはいえ、実際に使っているのは、手の形をしたいわゆる「孫の手」ではなく、小学校とのときから愛用している竹の物差しである。30cmという長さもちょうどいいし、竹製なので掻き心地がマイルドだし、縁がいい感じに丸くなっているため、実に具合が良いのである。ステンレスやプラスチックだとこうはいかない。