(これは、夢でみた、ちょっといい話です。)

ある男が借り物暮らしをして、生きていました。
家も借り物、着物も借り物、持ち物はみんな借り物。
男はいつも貧乏で、親しい人からなんでも借りまくって、その日暮らしをしていました。

ある日、その男にお金を貸したままにしている友人が、今日こそは取り立ててやろうと思って、男の家に乗り込んできました。
男は友人を接待できるものがなにもありません。いつも、友人が持っていくのです。

友人が手土産に持ち込んだお酒をちびりちびりとやりながら、二人は世間話をしていました。

友人は、男が来ている服が、ずいぶん前に別の友人から借りたものであることに気づきました。

(男…お、友人…ゆ)


ゆ お前、まだその着物、借りたままにしてるんか。

お そうですよ。

ゆ 着物くらい、自分で買えよ。

お まあ、いいじゃないですか。なんか、気に入っちゃって。相手も返してくれとは言ってこないし。

ゆ 今更、返されても困るやろ。そんなお前の手垢がらしみついたもん。捨てるしかあらへんやん。

お でも、それでいいんとちゃいますか。

ゆ あん?

お 僕ら、いずれは死にますやん。その時に気づくんと違いますかね。自分らが自分のもんと思ってたんは、みんな、この地球からの借りモンやったって。
なにひとつ、あの世には持ち帰られませんもん。

ゆ そら、そうやろ。

友人は、なんとなく、今日は一本取られたなと思って、貸した金の取り立てもせずに、帰りましたとさ。

おしまい