(絵は、ベッキーさん)


これは、京都アニメーションの人気アニメ

『響け❗️ユーフォニアム3』

を原作にしたファンアート(短編小説)です。


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出演:

「響け!ユーフォニアム3」より

東浦心子(もとこ)…パーカッション ティンパニ担当、高校二年生

井上順菜     …パーカッションパートリーダー、高校三年生

 

この物語は、アニメ「響け!ユーフォニアム3」をもとに創作したファンアート(小説)です。

 

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(じ:順菜、も:心子)

 

じ 心子ちゃん!

も は、はいっ!

 

順菜に呼び出された心子。

内心、ドキドキしている。

全国大会が終わり、三年生が引退するこの時期に、パートリーダーである順菜に呼び出されたってことは…

でも、でもっ!

あたしは全国大会に出られなかった。

最後のオーディションで、來理に負けた。

それは自分の驕(おご)りが原因だったと思う。

ウサギとカメという昔話の、自分はウサギになっていた。

中学からパーカスの経験者で、順菜先輩の背中しか見ていなかった。

高校からの初心者なんて、目じゃないって、心のどこかで思い込んでた。見下してた。

それが音に出たのではないかと、今は思う。

 

だから、全国大会金賞にみんなが浮かれていても、心のどこかで喜べない自分がいた。

コンクールに出場しないというのは、そういうことだ。

私がいなくても、北宇治吹奏楽部は大丈夫なんだ。

こんな挫折感は、今まで経験したことがなかった。

だから、順菜先輩に

「話があるんだけど、放課後の練習前にちょっといいかな?」

と言われたときはドキッとした。

実は、退部しようか、どうしようかと悩んでいたから。

心の中を見透かされてる気がした。

 

誰もいない教室の中で、先輩と向き合う。

 

も あの、話って…

じ うんうん、いやあ、実は、パートリーダー引き受けてくれないかなって。

 

順菜先輩はいつも直球でくる。

その言葉にはなんの迷いもない。

吹部でメンタル強いのは緑先輩が有名だが、順菜先輩も結構強いと思う。

本番で楽しそうに演奏してるし、あがってるのを見たことなどない。

自分も本番には強い方だが、順菜先輩ほどではない。

このときも、先輩はあたしが断らないだろうという絶対の期待を込めて、あたしを見ていた。

だから、あたしが涙目になって、

「そんな、あたし、できませんっ!」

て、咄嗟(とっさ)に口走ってしまったのには、先輩もあわてたみたいで。

 

「えっ、ごめん?わたし、変なこと言っちゃった?」

そう、あわてる先輩に、あたしは心のうちを打ち明けるしかなかった。

 

あたしが自分の心のうちを夢中でぶちまけるのを、先輩は真剣に聞いてくれた。

あたしが話し終わり、少し落ち着くまで、先輩はあたしの目を見ながら、じっと待ってくれた。

先輩の瞳に浮かぶ、慈愛の光。

あたしはこの先輩が好きだ。

けっこうわがままな後輩だったと思う。

でも、先輩から怒られた記憶はない。

いつもあたしに寄り添い、味方になってくれた。

ときには助言という形で、あたしの至らぬ点を気づかせてもくれた。

それは、あたしだけじゃないって知ってる。

あたしの代のパーカスの部員数はかなり多い。

その後輩たちみんなを、先輩は平等にかわいがってくれた。

とても面倒見のいい先輩。

あたしらはみんな個性的なメンバーで、しょっちゅうぶつかり合ったりもしたけど、

「まあまあ」

と先輩が仲裁に入ると、みんな素直になるのが常だった。

でも、先輩はずっとコンクールメンバーだったから、落ちたあたしの気持ちなんて、わからない。

心のどこかでそう思ってる自分がいた。

だから、つい、それが言葉になって、出てしまった。

そのときだけは、ちょっと困った顔をした先輩。

すみません、そんな顔させたかったわけじゃないんです…

そう素直に言えたら。

でも、あたしはその言葉を飲み込んだ。

 

じ 話はだいたいわかったよ。

  じゃあ、こんどは私の番ね。

  私の話を聞いてくれるかな?

 

こ はい…

 

なんだがいたたまれない感じがしたが、今度は自分が先輩の話を聞く番だ。

 

「コンクールの件は、ほんと、残念だったよね。

 わたしが言うのもなんだけど、あのオーディションの結果はわたしも正直、驚いたよ。

 確かに來理もすごく頑張ってたし、迫力のある音を出せるようになってたから、來理が選ばれたのも、わかる。

 どっちが選ばれてもおかしくなかったって、わたしは思ってる。

 ユーフォもそうだよね。久美子ちゃんと、真由ちゃん、どっちが選ばれても、おかしくないって、みんな思ってたんじゃないかな。

 だから、あなたの涙もくやしさもすごくわかる、わかるよ。」

 

「でもね、コンクールに出られない悔しさを経験したって、ものすごい経験だと思うんだ。

 くやしさをバネに、ひとはがんばることができる。

 今まで以上の力を発揮できるって、わたしは信じてるから。

 だから、あきらめないで。

 あなた自身を信じて。

 そうすれば、きっと明るい未来が待ってるから。

 来年もパーカスはオーディションは激戦区になると思う。

 新一年にも優秀な経験者が入ってくると思うし。

 全国大会に出るって、そういうことだから。

 でも、そんな、大変な時期のパーカスチームをまとめられるのは、心子ちゃん、あなたしかいない!」

 

そう言って、あたしの両手を強く握る先輩。

先輩のあたたかい手に握られて、あたしの心は熱くなる。

先輩の持っている情熱の熱量。

あたしは何度、この熱量に感化されたことだろう。

 

「わたしはコンクールメンバーをずっと経験することができた。

 だから、選ばれなかった子の気持ちをほんとうはわかってなかったと思う。

 そういう点でフォローが足りなかったとも思うよ。

 でも、心子ちゃんは、それを経験してる。

 だから、コンクールに出られない子にも寄り添えると思うんだ。

 パートリーダーとして、 あなたはわたしを超える。

 そう信じてる。」

 

先輩のまっすぐな眼に見つめられて、あたしはうなづくしかなかった。

退部の文字は、あたしの頭から消え去っていた。

 

「あたし、あたし、やります!

 先輩たちが作り上げてきた北宇治の伝統を継承して…強い北宇治を作っていきます!」

 

あたしの宣言に目を細める先輩。

こうして、順菜先輩からあたしへのパーリー引き継ぎは完了したのだった。

 

パーカスメンバーはみな、この人事を喜んでくれた。

來理なんかは、大泣きして、あたしに抱きついてきた。

そうか、この子も気にしてたんだな。

そう思うと、もういいやって、思えた。

次だ。次に行こう。

あたしたちは、次のステージに進む。

その覚悟はもう、できていた。

 


初出 2024.7.12