ヤマトタケルは伊吹山の神の化身と戦い、致命傷を負ったため、死んだと言われている。
東征の任務を果たして、凱旋の帰路、草薙の剣を女に預けてしまい、神剣のご加護もなくなった。
一代の英雄にしては、あっけない。
そういう感じがする。
だが、ヤマトタケル自身が現世を離れることを欲していたとすれば、合点がいく。
ヤマトタケルの魂は、大和国が日本を平らかにする、そのための戦の神として、この世に生まれた。
それが彼のミッションだったと言ってよい。
そのミッションが果たされたとなれば、現世にとどまる理由は魂としてはないのだ。
オトタチバナを失い、傷心だったことも、その背景にはあるだろう。
自分を守るために、海神にその身を捧げたオトタチバナの献身は伝説となり、今に伝えられる。
それほどの愛を目の前で見せられたヤマトタケルの想いは、いかばかりだったろう。
もともと、父である大王(景行天皇)が奈良の地にひらいた大和朝廷(古事記では神武天皇が東征し、大和朝廷をひらいたとされる)の支配は西国に偏り、それすらも一部の抵抗勢力が九州にいたのである。
大王としては自分の息子で武勇に秀でたヤマトタケルに九州征伐を命じたのは、自然なことだった。
そして、ヤマトタケルは、はかりごとにより九州の反乱分子だったクマソタケルの征伐に成功した。
これが初陣だった。
その武功を評価した大王は、未だ未開の地であった東国への遠征を計画し、ヤマトタケルにその任を与えた。
のちの世で、東国平定の将を征夷大将軍と呼んだが、その魁(さきがけ)がヤマトタケルだったと言ってよい。
ヤマトタケルは、東国遠征という重い任務を遂行するにあたり、叔母であるヤマトヒメのもとを尋ねた。
ヤマトヒメは高天原におわしますアマテラスを祀る役割を持った巫女であり、時折はアマテラスからのメッセージを大王に伝える役割を担っていた。
そして、大王がヤマトタケルを戦に駆り立てることを心配する、心優しい叔母でもあった。
王者の相があるヤマトタケルをこのままでは戦場で亡くしてしまうかもしれない。
気をつけよ、気をつけよ
とのメッセージが高天原から、ビンビン伝わってくる。
ヤマトタケルの持つ使命は大きく、天のご加護を得ている。
そう感得したヤマトヒメは、三種の神器のひとつである草薙の剣をヤマトタケルに貸し与えることにした。
続く