実は、床下にはプールが用意してあり、産屋に入ったサクヤヒメは、まきを囲炉裏にくべると、部屋の隅にあらかじめ置いてあった水瓶の水を頭からかぶり、煙にまかれないように注意しながら、床下へ通じる隠し扉を開き、避難していたというわけじゃ。
むろん、床下に逃れるのが遅れると炎の餌食となる厳しい時間との戦いがあったのは、想像できるじゃろう。
オオヤマツミが得意げに話すと、天孫族御一行様は、なあんだ、そうだったのか、と納得したようだった。
しかし、そんな地下室をあらかじめ作っておったと言うのか?
なかなか手がこんでおるのう。
そう誰かが聞くと、オオヤマツミは、
無論、最初はただの平屋だったのじゃが、ニニギ殿にサクヤヒメが疑われていると聞いてのう、イワナガヒメに相談したんじゃ。
お前だけではなく、サクヤヒメまでが離縁されそうじゃ、とな。
イワナガヒメは、神に伺いを立てて、この火計を教えてくれたのじゃ。
と、答えた。
なんと、そのようなことができるとは、地上のヒメもなかなかやるのう。
と、御一行様は感心するのだった。
産後でヨロヨロしているサクヤヒメだったが、ニニギくんに近づくと、
わたしの潔白はおわかりいただけましたか?
と聞いた。
計られたとは思うものの、命がけの賭けに出たことは変わらない。
そこまでして身の潔白を証明したかったのか、とニニギくんは感動すら、覚えていた。
わかった。ぼくの負けじゃ。
サクヤヒメの言う通り、これらは我が子たちであるとここに宣言しよう。
ニニギくんは、あっさりと負けを認めた。
こういう素直なところは、ニニギくんの長所であった。
だが、これからはもう二度と、このような無茶はせんようにな。
まずは身体をいとえよ。
ニニギくんがやさしくサクヤヒメの肩に手をかけると、サクヤヒメは、顔を真っ赤にした。
おっと、すまん。
まだ、身体が熱いのか?
ニニギくんがそう気づかうと、
はい、わたしの心はあなたさまへの思いで熱くほてっております。
産屋を燃やし尽くした炎のように。
そう答えるサクヤヒメに、まわりは、ヤンヤヤンヤの大合唱なのだった。
夫婦仲ももとに戻り、これからは仲むつまじく、三人の子を育ててほしいものだと、オオヤマツミは安堵の顔を浮かべたのだった。
続く