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産屋にサクヤヒメが戻ってしばらくすると、

ヅカヅカヅカ❣️

と荒々しい足音が遠くから聞こえてきた。

従者の多さから

ニニギ様だわ

とわかったサクヤヒメは、産屋の前に出て、ニニギくんの到着を待った。

ニニギくんには、遠目からもサクヤヒメの際立つ美しさが見え、それだけにやるせなさが募るのだった。

今や疑心暗鬼に囚われたニニギくんなのであった。

疑心暗鬼は、ひとの心に取り憑く魔物で、地上界を根城に暗躍している鬼。
ニニギくんは、そんな鬼がいるなんて少しも知らない。

普段から心を明るくしていれば、このような鬼は寄り付けないのだが、今のニニギくんはいるかどうかもわからない妻の浮気相手への嫉妬心で心が暗くなっているため、このような鬼にやすやすと取り憑かれてしまうのだった。

天孫族のニニギくんらしからぬことであった。

ニニギくんは、サクヤヒメの前にやってくると、

懐妊したというは、まことか⁉️

と詰問するように言った。

サクヤヒメは、

はい、お喜びくださいませ。
あなたとわたしの子ですよ。

と、ニニギくんの目を見て言った。

その大きな目に見つめられると、あの甘い夜が走馬灯のように頭によみがえるニニギくんであった。

ハッと我に帰ると、

はん❣️だまされないもんねー❣️
お前、ぼくとまぐあう前にほかの誰かとまぐあったんだろう❣️
そのおなかの子がぼくの子であるはずがない。
ふしだらな女め❣️
ぼくは騙されないからな❣️

ぼっちゃん気質のニニギくんは、イワナガヒメを傷つけたように、サクヤヒメの心をえぐる罵詈雑言を浴びせるのだった。
無論、それは疑心暗鬼が言わせているのである。

サクヤヒメはニニギくんの言葉のDVを浴びながら、目を閉じてじっと耐えていた。

まずは、ニニギくんの心の中にある毒をすべて吐き出させなければ。

そう思い、ひと言も反論しなかった。

だが、言葉の暴力は、サクヤヒメの心を打ちすえ、信じてもらえない無力感が心に広がるのだった。

閉じた目からは涙がとめどなくあふれ、ニニギくんをたじろがせたが、

へん、そんな嘘泣きに騙されるもんか❣️

と、彼の暴言はさらにエスカレートするのだった。

続く

 

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