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サクヤヒメは産屋の中でため息をつきながら、行ったり来たりしていた。

ニニギくんの疑いの波動がビンビン飛んでくるので、気が休まらないのだった。

狭いところにいると、気持ちが暗くなるだけだわ。

そう思い、近くの海辺に外出するのだった。
波の音を聴いていると、心が洗われる。

まったくもう、なんでわたしがこんなに悩まなくちゃならないの。
やましいことなど、何ひとつないというのに。

本当にオトコというのは疑り深い生き物。
なぜもっと少年のような心で素直に喜んでくれないの?

そう思うと、気持ちが沈み、暗くなる。

わたしとおなかの子は、これからどうなるのだろう?

ニニギくんに信じてもらうにはどうすればいいのか、サクヤヒメにもわからなかった。

したことを証明するのはたやすいが、
していないことを証明するのは難しい。

そのときは、まごころをお伝えするしかない…。

そう思い至ったとき、夕陽の光が明るくサクヤヒメの顔を照らすのだった。

そうだ、まごころのままに生きていこう。
それでも疑われるようなら、我が子と慎ましく生きてゆけばよいのだから。

心が定まったサクヤヒメは、産屋へと戻るのだった。

続く

 

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