【マリア、その愛】
聖母マリアは最初から聖母だったわけではありません。
どこにでもいる、信仰心の深い、普通の女性でした。
これは、そんなひとりの女性のお話です。
・・・
マリアは大工のヨセフと結婚することになりました。
知人の紹介でしたが、適齢期で相手を探していたこともあり、ヨセフのやさしさを感じて、この人ならいいかな、と感じたのです。
ヨセフの家に嫁ぎ、新居でお祝いをみんなにしてもらい、マリアは幸せでした。
初夜を迎え、とても緊張しましたが、ヨセフのやさしい腕に抱かれると安心するのでした。
若い男女の夜は情熱的に過ごされました。
愛し合う男女の愛は神聖なものとされていましたので、それは自然な行為でした。
神がそのように男女の身体をお作りになったのです。
やがて、生理が止まり、マリアは、もしかして身籠ったのではないかと思いました。
そして、その夜、マリアは不思議な夢を見ました。
光輝く天使がマリアの目の前に現れて、座っているマリアの手をとり、キスをしました。
そして、
『マリアよ、あなたは聖なる御子(みこ)を宿します。』
と告げました。
マリアは驚き、
『いえ、私はただの端女(はしため)に過ぎませんし、旦那さまもただの大工です。
どうしてそんなところに聖なる子が宿ることがあるでしょうか?』
と言いました。
天使はぬかづき、
『あなたの魂の契りをもって』
と言いました。
『魂…ですか?』
マリアは驚いて尋ねました。
天使はこう告げました。
『聖なる母となるマリアよ、あなたは救い主を身ごもられたのです。それは生まれる前にあなたが救い主となる方と約束したことが成就されるということなのです。』
マリアは、信じられませんでしたが、この天使が告げていることはほんとうのことだと感じました。
天使はにっこり微笑むと、そのまま、姿を消しました。
『あ、待って』
マリアがあわてて天使を呼び止めようとしたところで目が覚めました。
不思議な夢でしたが、ありありと覚えていました。
マリアは忘れないようにと、夫のヨセフに語りましたが、相手にされませんでした。
マリアは家族にも話しましたが、夢の話だろ、と言われて相手にされませんでした。
(それはそうよね、私が夢で見ただけなんだもの、誰も信じるわけがないわ)
そう自分で納得するのでした。
十月十日がたち、マリアは急に産気づきました。
(いよいよ生まれるのだわ)
そう思いましたが、急なことで、産婆さんのところまで行けそうにありません。
マリアは近くにあった馬小屋に入り、干し草の上に横になりました。
馬が不思議そうな顔をして、マリアを眺めています。
その瞳のやさしさにマリアはなんだかホッと安心するのでした。
(大丈夫、この子は無事に生まれる)
マリアはそう感じました。
マリアが陣痛にうんうんうなっていると、マリアのほおをそっとなでるものがいました。
マリアがうっすら目を開けると、光まばゆい中に若い男性のやさしい微笑みがありました。
(だれ?ヨセフじゃない…。でも、なんだか、あたたかい光…)
そうマリアが思うと、痛みがすっと引いていくのでした。
その男性の姿はまばゆい光の中に溶けていきました。
(あれが、あれが救い主の姿なの?私がこれから産む方なのかしら)
そう、ぼんやりと考えていると、産婆さんが駆けつけてくれました。
『この馬小屋の主が馬にエサをやりに来たら、産気づいた女性が倒れてるって、あわてて私を呼びに来たんだよ!』
産婆さんはそう言って、テキパキと産湯などの準備をしました。
そうして、無事にマリアは元気な男の子を出産したのでした。
メリークリスマス🎄🎁🎅