ぴろり

ぴろり


小鳥が空のうえ

羽ばたきながら

さえずっている


わたし(エルフィー)は

小鳥のほうに片手を差し出す


おいで

おいで


すると、小鳥は

らせんを描きながら、

わたしの手のひらに着地する。


(あ、なにかエサがあったらよかったかも)


ちいさなくちばしでわたしの手のひらをつつく小鳥。


(あー、かわいいわあー)


萌え萌え、きゅんきゅんなわたし。


そんなわたしを、小さな女の子がそばでしゃがんで、見上げているのに気づく。


目と目があう。


女の子は、つぶらな瞳でにっこりと微笑んだ。


(か、かわいい)


わたしは、人間が苦手ではあるが、すべての人間というわけではない。


小さい子どもはけっこう好き。


好奇心旺盛で、


お姉ちゃんの耳はどうして長いの?

病気?


とか、聞いてきたり。


そういうときは、


お姉ちゃんはエルフだから、耳が長いのよ


と言う。


すると、


エルフってなあに?


と聞いてくる。


わたしは少し考えて、


たぶん、説明してもわからないだろうなと思い、


お姉ちゃんみたいな人のこと。


と、はぐらかす。


そうすると、


ふーん


ってなる。


とりあえず、病気ではないとわかってもらえたら、よしとする。


子どもはかまってほしいだけなのだ。

相手にしてもらいたい。

遊んでほしい。

そう、キラキラしたおめめが語りかけてくる。


お姉ちゃん、遊ぼっ!


そう言って、ちっちゃなおててで

私の手を思いっきりひっぱる。


わ、わ、わ、


そう言いながら、引かれるままにする。


それからは、


鬼ごっこだったり、


かくれんぼだったり、


ああ、森の学校でも遊んだなあ


と思い出しながら、


遊びにつき合う。


その女の子とは、


お花をつんで、髪飾りを作って遊んだ。


小さなはなかんむりをあたまにかけてあげると


うれしそうに微笑む。


この里山では、けっこう子どもたちは親から離れて遊んでいる。


子どもたちでグループを作っていることが多い。


でも、その女の子はひとりぼっちだった。

なんだか、わたしに似てるかも。


人間社会になじめずに、アパートの部屋に引きこもる生活。


こんなんじゃ、卒業試験に合格できっこない。


卒業できないと、エルフの森へは帰れない。


森の学校でもう一年学びなおし。


わたしとしては、エルフの森に帰りたい。


パパやママに会いたい。


森の学校では、いろんなことを教わった。

視野もずいぶん広がった。

必要なことは学び終えた、と思う。

(たぶんだけど)


だから、次はエルフの森に帰って、村のみんなのためになる仕事がしたい。


そう思って、先生に相談したら、


森の学校を卒業するには、卒業試験を受けなさい。


と言われ、


出された課題が、


人間の社会に出て、一ヶ月間暮らし、そこで学んだことをレポートにまとめる


というものだった。


実はこう見えて、物書きには結構、自信がある。(エッヘン)


森の学校では、読み書きを教えてもらい、けっこう優秀だったのだ。(エッヘン)


だから、人間社会に出たら、日記を書こうとすぐに思いついた。


森の学校には人間界の書物のうち、名著と言われるものが蔵書されていた。

生徒たちにこれならば読んでほしい、と思えるものを先生たちがよりすぐり、図書館に集めていた。

その中に、日記もの、と言われるジャンルがあり、わかりやすいと生徒にもよく読まれていた。


書くなら、日記ものがよい。


この思いつきにわたしは内心、ウキウキしていた。


・・・


そんなことをつらつらと思い出してると、

女の子がわたしの手をひっぱり、


お姉ちゃん、どうしたの?


と、心配そうにわたしの顔を見上げていた。


は、だめだわ!


すぐ、夢想癖が出ちゃう。


いまは、目の前のことに集中、集中


わたしは、女の子に向き直った。


次は、なにして遊ぼっか?


・・・


やがて、夕暮れになり、


女の子は、迎えに来た母親に連れられて、帰っていった。


なぜか、わたしには、母親の姿がぼやけて見えたのだった。


そう言えば、あの子の着物、なんだか古びてたような


わたしは、本日の任務が終了したと思い、また変装して、里山のアパートへと帰るのだった。