【万力の握力】
イグロさんは普段はネチネチといやみばかり。
苦手なタイプと思ってた。
だが、弱いものには優しい一面がある。
厳しい優しさだが。
イグロさんのしごきは、さながら鬼のよう。
当然、脱落者も多いが、
命を失わないためには、鍛えるしかない、
と考えている。
実際、人はすぐに死ぬ。
特に鬼との戦いにおいて、勝ち目は薄い。
でも、戦わないといけない。
そんなときに、部下をしごくのは、部下への思いやりである。
死ぬな、生き抜け、と。
戦場で部下をかばって、戦うイグロさんを何度も見た。
足手まとい、とネチネチ言いながら、部下を必死で守っていた。
そのために深手を負うことだってあるだろうに。
イグロさんの戦うさまを見てから、彼のことを好きになった。
コバンザメのようにあとをついて行った。
嫌がられようがお構いなしに、まとわりついた。
本能で、イグロさんについていけば安心だと思っていたのかもしれない。
イグロさんとの別れは今も目に焼きついている。
その鬼はとても強かった。
十本の太い腕をぶんまわして、仲間を殺戮ひていく。
1本の手が相手でも、骨が折れる。
そんな鬼だった。
さすがのイグロさんも、逃げながら、一本ずつ腕を切り落としていった。
だが、人間には体力の限界というものがある。
柱だとて、例外ではない。
イグロさんが8本目の腕を切り落としたとき、彼の体力は限界だった。
彼の背に残り2本の鬼の腕がせまっているのが見えた。
その刹那、自分の身体が動いていた。
イグロさんの背中をかばうように、身体を鬼の腕の前に入れた。
鬼の二本の腕が私の頭と胴をつかんだ。
グシャッ!
鈍い音をたてて、私の身体はつぶされた。
それを遠くで見ているもうひとりの私がいた。
イグロさんは、最初、なにが起こったのかわからなかったようだった。
だが、つぶれた私の身体を見たとき、彼の目が変わった。
みるみる彼の刀が赤く染まったように見えた。
そして、鬼を赤くなった刀で粉みじんにした。
彼の怒りが万力の握力を生み、鬼滅の刃を赤く染めるのを私は見た。
見た?
なんで?
もう、死んでるのに?
そこから先は、死後の私の物語。
よっくる@鬼滅ファン