この物語を、地上に住まう、すべてのかぐや姫たちに
捧げます。
皆さんの人生に幸多くあらんことを!


【スペースエンジェル・かぐや姫伝説】

かぐや姫


かぐや姫は、地球に生まれる前は、月におりました。
月には、宇宙から地球人を手助けするためにやってきた人たち(宇宙人)の基地がありました。
新しい愛の形を全宇宙に示すために、新たな文明を地球に築くという、宇宙規模の壮大なプロジェクト。
それを手伝う使命を持って、かぐや姫も、別の星から月にやって来たのでした。
姫は、毎日、月の基地から青く輝く地球をながめては、
「なんて美しい星なんでしょう。
私も、あの星で暮らしてみたいわ。」
と思っていました。
月の基地には、さまざまな星からやって来た宇宙人たちが忙しく働いていました。
毎日のように、UFOが地球に向かって飛び立って行きます。
「私も、あのUFOに乗って、地球の空を飛んでみたいな。
誰か乗せてくれないかしら?」
姫がそう思っていると、親切な宇宙人が近づいて来て、姫に声をかけました。
「やあ、君は地球にまだ行ったことがないのかい?」
姫は、
「はい、私は、まだここに来たばかりで、なかなか行く機会がありません。どうすれば、行けるのかもわかりませんし…」
と答えました。
親切な宇宙人は、
「そう。なら、今度、僕が地球に降りる時に、連れて行ってあげるよ。」
と、姫を誘ってくれました。
「わあ、本当ですか?ありがとうございます!」
姫は深々とお辞儀をして、お礼を言いました。
「君は、行儀のよい人だね。いつか、君にピッタリな仕事が回ってくるだろう。
時々、ここから地球に生まれる使命を授かる人がいるんだ。
もしかしたら、君が選ばれるかもしれないよ。」
宇宙人の言葉に、姫は、大きく夢をふくらませるのでした。

ある日、約束通り、親切な宇宙人は、姫をUFOに乗せて、地球に連れて行ってくれました。
UFOから見る地球の景色は、それはもう美しく、姫の心を打ちました。
「なんて素敵な星…。私、絶対にこの星に生まれて、何かのお役に立ちたいわ!」
姫は、心に強く決心するのでした。
親切な宇宙人は、
「君のその思い、きっとかなうよ。
ただし、君が生まれる地球人の社会は、君が思ってるほど、美しくないかもしれないが。」
姫には、宇宙人の言葉の意味がよくわかりませんでした。
そう、実際に生まれてみるまでは…。

姫が地球に生まれてから。

都で暮らすようになった姫は、決められたレールに乗った生活が窮屈で仕方がありませんでした。
求婚してくる殿方にも、なんの魅力も感じません。
ただ、姫の美しさにむらがる人々の心に、愛を感じることができないでいました。
姫は、毎夜、月をながめては、さめざめと泣くのでした。
姫を育ててくれたお義母さんは、そんな姫の様子を心配して、
「姫や、なぜ、そのように嘆かれるのです。
月は、あんなにも、美しく輝いているというのに。」
と、声をかけました。
姫は、お義母さんに、
「月を見ると、無性に帰りたくなって、泣くのです。」
と答えました。
お義母さんが竹取の翁(おきな)にそのことを伝えると、翁は、
「さては、姫は、月世界より授かったお子であったか。せっかくここまで手塩にかけて育てたものを、月に去られては一大事。」
と言って、警戒を厳重にして、姫が月に帰れないようにと、備えるのでした。
「このように、十重二十重に屋敷をくるんでも、わが月への思いは、抑えられようもない。」
姫は、そう言うと、肉体を抜け出して、空へと登っていきました。
下界では、急に倒れた姫を心配して、家のものが集まっています。
姫は、一瞥もくれずに、そのまま天空に向かって、昇っていきました。
天空を舞う姫の姿は、美しい蝶のようでした。
姫は、雲の上に出ると、一休みしました。
雲間から見る下界は、夜の灯りがちらちらとまたたいて、とてもきれいでした。
姫の頭上には、大きな月が光り輝いています。
すると、姫の心の中に声が響いてきました。
「姫や。この地球で暮らす人々の心を感じてごらん。」
姫は、そっと目をつむり、灯りの一つ一つに思いをはせました。
すると、下界に暮らす人々のさまざまな心が、姫の心に感じられるのでした。
「なんということでしょう。
みなの心は、苦しみや不安に満ちています。
誰も自分が幸せだと思っていないかのようです。
こんなに美しい星に住んでいるのに、なぜなのでしょうか」
姫が尋ねると、心に響く声は言いました。
「姫や。これが今の時代を生きる人々の心の声。
あなたが都での生活で経験したように、誰もがみな、不自由な環境のもとで、自分の思いを押し殺して、密やかに生きています。
不安がこの世界を彩っているのです。」
姫は、
「それは、私も体験したので、わかります。
人々は、かく生きるべしという社会の決まりに縛られ、自由に生きることができません。
みんな、本心では、もっと自由に、何ものにも縛られずに生きていたいはず。
でも、それが許されない世界を地球人は作ってしまった。
なぜ、そんな窮屈な社会を作ってしまったのでしょう。」
姫の問いに、声は、
「姫や。
この時代に生きる人々は、制限された自由を経験するために、このような社会を作っています。
そこには、魂が本来持つ自由を奪われる苦しみがあります。
それがどんなものかを体験したいのです。
月の世界にいれば、そんな苦しさはないでしょう。
宇宙に暮らす人々は、魂の自由を制限されることはありません。
皆が自分の人生に責任を持ち、自由を与えられて、神に生かされているのです。」
声は続きます。
「地球に住む人々は、愛を中心とする文明を築くために、全宇宙から呼び集められました。
言わば、ゼロから新たな文明を作り上げようとしているのです。
今までにも数々の文明が作られては消えていきました。
地球における文明は試行錯誤を繰り返しながら、進化してきました。
だから、まだまだいたらぬところも多いのです。
でも、自由を制限される苦しみを知らなければ、それを当たり前に思い、ありがたみも感謝も感じないかもしれません。
自由というもののありがたさがわかりたくて、あえて地球の人々は苦しみに自らを浸しているのです。
苦楽というものは、苦があればこそ、楽がある、そういうものかもしれません。」
姫は、
「そうだったのですか。
私は地球について、まだ何も知らなかったようですね。
私は、今は月に帰りたい、ただそれだけを願っております。
自分で地球に生まれることを願っておきながら、情けないことですが、今の私には、地球での暮らしは苦しすぎます。
なんとか月に返してはいただけないでしょうか。」
声は、答えました。
「姫や、あなたの気持ちはよくわかりました。
でも、今のまま帰ることはできません。
あなたは、育ててくれた方々の恩を忘れていませんか。
きちんとお別れを言わなければ、あなたは月に帰ってから、きっと後悔するでしょう。
月から迎えをよこしますから、いったんはお帰りなさい。」
「はい、わかりました」
姫は、そう答えると、すうっと気が遠くなって、気がつけば、床に寝かされているのでした。
目を覚ました姫を見て、翁も、お義母さんも、家人もみな喜びました。
姫は、涙を流して喜ぶ翁とお義母さんを見て、戻ってきてよかったと思いました。
でも、いつかはお迎えが来て、別れなければならない…。
姫は身勝手な自分をすまなく思いながら、今はただ、二人のそばにお仕えしていようと思うのでした。


月に戻れば

姫は、UFOに乗せられて、地球を離れ、月の基地に帰って来ました。
親切な宇宙人が現れて、姫を出迎えました。
「やあ、お帰り。素敵な姿をしているね。地球での暮らしはどうだった?大変だったかい?」
と、姫に尋ねました。
姫は、
「ええ、とっても」
と言うと、宇宙人に抱きついて、泣きました。
宇宙人は、姫の頭をやさしくなでてやりました。
「姫、大変だったようだね。
私たち、宇宙人が地球の暮らしに適応するのは大変なんだ。
常識がまったく違うからね。
でも、地球で暮らしてみないと、味わえない感情があるのも事実なんだ。
特に、苦しみや悲しみといった感情はね。
地球という、ある意味で厳しい環境で暮らしてみて、初めて味わえるものかもしれない。
僕たちは、神様から永遠の生命を与えられて、愛の思いで生きることを当たり前だと思っているけれど、地球では、いったん、そうした価値観は忘却の淵に沈められて、まず、心に愛を取り戻すことから始めないといけない。
でも、それって、難しかったろう?
それが地球での学びでもあるんだ。
君は、地球で愛(あい)深(ふか)く生きられたかい?
それが君の、地球での人生の試験だったのだよ。」
姫は、首をふるふると振って、
「私、私、愛深くなんかなかった。
自分のことばかり考えて、まわりの人の幸せを考えようとさえ、しなかったわ。
私は、私がまだまだ愛を学ばなければならないって、わかったの。
そして、もっと強くならなきゃって。
地球で暮らしてる人たちは、なんてすごいのかしら。
私、もっと愛を学んで、もう一度、きっと地球に生まれるわ。
そして、今度こそ、愛深く生きたいわ。
自分のために生きるのではなく、
誰かに喜ばれる生き方を、地球でしてみたい。」
宇宙人は、うなずいて、
「そうだね、そうすればいいと思うよ。
今回の人生の学びは、次の転生でかならず生かされるよ。
失敗から学ぶのが地球流らしいからね。」
そう言って、笑うのでした。

今、あなたの身近にいる女性が、地球での人生をやり直している、
かぐや姫かもしれませんよ。

よっくる

(初出 2014.6.1)


あとがき

昔話や童話には夢や希望が詰まっていると思います。
特に子供時代にそうした物語を読んで、楽しんだり、悲しんだり、感動したりして、感性というものは養われていくものです。
でも、その物語がスピリチュアルな視点で書かれていたら、どうでしょう?
今のように、物質主義一辺倒の世の中の価値観に、違和感を感じる子供たちが増えるかもしれません。
これからの時代は霊性の時代と言われています。
スピリチュアルな物差しで新たな社会を創造する時代です。
旧世界は物質中心の価値観の時代ですが、これからの新世界には心の価値観が重要になります。
これからの時代にふさわしいスピリチュアルな物語を、今までの昔話や童話を題材に書いています。
本作はそんな中で生まれた作品です。
本作を執筆した弐千十三年は、ジブリの「かぐや姫の物語」が公開されたり、世間がかぐや姫ブームで盛り上がっていた時でした。
竹取物語というのは日本最古の物語と言われています。
私はお姫様の物語が好きで、海外では「シンデレラ」や「白雪姫」、「人魚姫」などの物語がありますが、日本にも「かぐや姫」や「虫めでる姫」なんてマニアックなものもあります。
そうしたお姫様の物語をスピリチュアルな視点で読み解くのが、谷よっくる流のお姫様の物語です。
私は自分の中に女性性があり、その女性性が受け取ったインスピレーションをもとに物語を書いていると思っていますが、お姫様の物語に惹かれるのも、自分の中の女性性が波長同通するからなのです。
なにしろ、小学校の頃から少女漫画にはまり、魔法少女ものなどの少女アニメは大好きでしたし、「セーラームーン」にも結構はまりました。
セーラームーンに出てくるセレニティというプリンセスの名前は月に宿る神霊の名前だとあとになって知りました。
このように物語には神理の一部がこっそり忍ばせてあったりするものですが、それに気づけるかは、読者次第です。
この物語を、是非、多くの方に読んでいただけたなら、幸いです。

二千二十一年七月
谷 よっくる