海の日に降りてきた物語です。
書いてるうちに、原型をとどめなくなってしまいました~(^-^)/
お楽しみ頂ければ幸いです。


【浦島太郎~スピリチュアルバージョン~】


浦島太郎

(絵は、めぐっぺさん)


むかしむかし、
あるところに、
浦島太郎という若者が
住んでいました。

太郎は、
釣りが得意でした。
海に小舟を浮かべては、
毎日、魚を釣り、
生活していました。

太郎には、
自慢の釣り針が
ありました。
これで釣ると、
いつも大物が釣れるのです。

太郎は、
その釣り針を
普段は神棚にお供えして、
ここぞという時にしか、
使わないようにしていました。

太郎がその釣り針を使うのは、
村で何かお祝い事があるような時でした。
宴に出す魚を釣る時に、
神棚の釣り針を漁に使いました。
そして、釣れた大物を宴のためにただで提供するのでした。
太郎は、村の人々にとても感謝されていました。
そして、宴にはかならず呼ばれて、歓待を受けるのでした。

太郎は、数多くの宴に参加し、結婚式で幸せそうなカップルを何組も見ているうちに、自分も嫁さんがほしくなりました。

「まあ、そのうち、誰かがいい人を紹介してくれるだろう」

太郎はのんびりと、そんなことを考えていました。

ある時、太郎は、

今までにとったことのない、
大きな魚をとってやろう!

と、思いつきました。

そして、神棚から釣り針を取ると、いそいそと小舟を漕ぎ出しました。

海の真ん中で釣り糸を垂れて、
魚がかかるのを待ちました。

いつもなら、数分でかかるのですが、今日に限って、なかなか
かかりません。

数時間待ってもかからないので、

今日はもう無理か。
それにしても、
こんなことは初めてだ。
どうしたんだろう。

と思いながら、
釣り糸を巻き上げようとすると、海面から亀が顔を出しました。
みると、甲羅のところに釣り針がかかっています。

はてさて、
今日かかった大物は亀であったか、
しかし、亀を釣り上げるのも大変だし、
ここは逃がしてやろう。

太郎はそう思って、亀の甲羅から釣り針をはずしてやりました。

亀は太郎に礼を言うように会釈すると、大海原に消えていきました。


ある日、村人が共同で、大きな漁をすることになりました。
一年に一度の大きな漁。
クジラをとりに行くのです。

クジラとりは、命がけの危険な漁でしたが、この村では年に一度、
クジラをとり、そのクジラから取れるものを都に送ることで、税金を軽くしてもらっていました。

太郎は、クジラとりは、あまり気が進みませんでしたが、村の若者はみな駆り出されるので、嫌とは言えません。

さすがに釣り針ではクジラを釣ることはできないので、お守りがわりに持っていくことにしました。

ところが、その年のクジラ漁は、途中で大きな嵐にあってしまい、たくさん船が沈み、たくさんの村人が亡くなる大惨事になりました。

太郎の小舟も沈んでしまい、
太郎は大海原に投げ出されました。

ああ、自分はここで死ぬのか。
死ぬ前に嫁さんがほしかったなあ。
それだけが心残りだ…。

太郎は海に沈んでいきながら、
そんなことをぼんやり考えていました。

太郎は、真っ暗な海の底に沈んでいきました。
すると、大きな亀が現れました。
いつか、太郎が助けた亀でした。

太郎が亀の背につかまると、
亀はすごい勢いで泳いでいきました。
やがて、あたりが急に明るくなったかと思うと、
海の底に美しい宮殿が現れました。

ほ、あれは噂に聞く、
竜宮城ではあるまいか。

太郎がそう考えると、
亀は、こっくりとうなづきました。

そうじゃよ。
ここは竜宮城。
あなたは、ここに招待されたのじゃ。
あなたの持っている釣り針が、
竜宮城にはいる入場券じゃよ。

亀は笑って、そう言いました。

そういえば、ここは海の底なのに、いつのまにか息ができます。
空気があるのです。

海の底に陸があるなんて、不思議なことじゃのう

と、太郎は思いました。

亀は、太郎から釣り針を預かると、門番のサメにそれを見せました。
サメは不審なやつが来たら、鋭い歯で食ってやろうと、歯をガチガチいわせていましたが、
釣り針を見ると、だまって門を通してくれました。

竜宮城の中に入ると、童女が現れて、

ようこそ、竜宮城へ。
さあ、こちらに来てください。
皆さん、お待ちかねですよ。

と、太郎を案内しました。

太郎が案内されたのは、大広間でした。
鯛やヒラメが楽しそうに舞い踊る、不思議な光景が見られました。

ここは、海の極楽ではあるまいかの。
すると、わしは、死んで、ここに来てしまったということか。

太郎がそう考えていると、
太郎の頭の中に美しい声が響いて来ました。

太郎さん、ようこそ竜宮城へ。
私は、あなたが来られるのをお待ちしておりました。

いつのまにか、太郎の目の前に、美しい女性が立っていました。
女性は太郎にうやうやしくおじぎしました。
太郎もぺこりとお辞儀しました。

さあ、こちらにいらしてください。

女性は太郎の手をとり、席に座らせました。
そして、太郎にお酒をついで、飲むように勧めました。

それは、今まで飲んだことのない、甘く、そしていい香りのするお酒でした。
何杯飲んでも、酔っ払わず、それでいて、楽しい気分にさせてくれるお酒でした。

太郎はホロ酔い気分になり、リラックスしてきました。
そして、女性に話しかける勇気が湧いてきました。

時に、あなたはどなたですかいの?

太郎がもじもじしながら尋ねると、

私は竜宮に住む、乙姫と申します。

女性はにっこり笑いながら、そう答えました。

乙姫さん、わしはあなたと初めて会うんじゃが、こうしていると、前から知っているような不思議な気持ちになるのう。
どこかで会いましたかの?

と、また太郎が尋ねると、

はい、あなたの夢の中で、何度もお会いしました。

そう言って、乙姫は、顔を赤らめました。

その様子を見て、太郎は、
なんだかドキドキしました。

乙姫は、自分を知っているらしいが、自分は覚えていない。
何か失礼なことはしなかっただろうか?
何か失礼なことは言わなかっただろうか?
夢で見たことなど、ほとんど覚えていない。
太郎は滝のように冷や汗をかきました。

それを見て、
乙姫がくすくすと笑ったのにつられて、太郎も自然と笑いがこみあげてきました。

そうだ。
忘れてしまったことを、
あれこれ悩んでも仕方がない。
今は、この、奇跡とも言える出会いに感謝して、楽しもう!

いつのまにか、二人は、手に手をとって、踊り始めていました。
海の生き物たちがそんな二人をやんやとはやしたてます。

二人が恋仲になるのに、それほどの時を要しませんでした。

・・・

それから、三年の歳月が流れました。

二人は仲睦まじく、幸せに暮らしていましたが、太郎は少し退屈していました。

なにしろ、竜宮城ですから、働かなくても生活には困りません。

でも、ここでは、大好きな釣りもできません。
だって、ここでは、魚も貝も、みんな海の仲間なのです。
仲間を釣ったりするなんて、できませんよね。

そういうわけで、乙姫と過ごす時間以外、太郎はとても退屈していました。

漁村の懐かしい暮らしがさかんに思い出されます。

そんなある日、事件は起こりました。

乙姫のお父さんが急に竜宮城にやってきたのです。

普段は、海を管理する仕事で、
東奔西走している海の神様なのですが、今日は重大な知らせがあると、あわてて竜宮城に帰ってきたのです。

どうも、いよいよ大きな津波を起こすようじゃ。
あらかじめ予定されてはおったがのう、いよいよらしい。
わしらの計画も、いよいよ実行する時が来たようじゃ。

海神は、三度も、いよいよ、と言いました。
よほど、あわてていたのでしょう。

乙姫は、真剣な表情でうなづきました。

太郎一人だけがポカーンとしていました。

重苦しい空気が流れ、海神も乙姫も口を開きません。

太郎は何か言わなくては、と思い、

あのう~、
私にできることがありましたら、
なんなりと
お申し付けください。
できる限りのことは、させていただきます。

と、口を切りました。

海神は、

おお、そうか、よく言った!

と喜び、乙姫に目配せしました。

乙姫は、うやうやしく三つ指を立てて、太郎にお辞儀をしました。

太郎は、あわてて、

乙姫さん、よして下さい。そんな他人行儀な…。

私は、あなたのためなら、たとえ火の中でも飛び込むでしょう。

さあ、私がなすべきことを私に示して下さい!

と言いました。

乙姫は涙ぐみながら、

されば、お願い申し上げます。

と、口上を述べました。

乙姫の話は、驚くべき内容でした。

・・・

かみがこの世界を作りし時、
あの世とこの世に分けられた。

あの世はとこしえの国として作られ、神の子たちが住まう場所とされた。

この世はいっとき住まう国として作られ、神の子たちが期間限定で住まう場所とされた。

そして、かみは、神の子たちに、この世を、あの世と同じ極楽にするようにお命じになり、この世を自由に作り変える力を与えられた。

ただし、神の子たちがこの世を極楽にすることができなかった時は、神の子たちの作った国を、
津波や地震で壊してしまうと言われた。

その時は、また一から作り直しだよ。

かみはそう言って、最初の神の子たちをこの世に送り出した。
神の子たちは、この世に生まれ、人間になった…。

そんな物語でした。

太郎は、

そうだったのか~。

と驚きながら、

だとすると、近々、津波が起こるという話は、人間が作る世界が極楽になっていないという、神の怒りなんだろうか。

と思いました。

太郎は、あのう…と口を開きました。

今の話が本当だとすると、
津波でたくさん、人が死ぬんですかいのう。
わしは、それは嫌じゃ!
なんとか、津波を起こさんように、取りはかってはもらえんもんじゃろか?

乙姫は、困って、海神を見ました。

海神は、おほんとせきばらいして、

これはの、かみと人間とのいにしえからの約束なんじゃ。
なんぴとたりとも、この約束を破ることはできん。
我らにできるのは、死んでも魂は生きている、この世からあの世へ帰るだけじゃと、人間たちに知らせることだけじゃ。
そんな簡単なことすら、人間は忘れてしまっておる。
そして、この世の富を得ることばかりに夢中になり、かみから与えられた、この世を極楽にするという使命を忘れてしまったのじゃ。

極楽とは、一部の人間が栄えて、
多くの人間を苦しめることではない。
この世の生がいっときなるを知れば、この世の栄華がはかなく、
あの世へ持ち帰れぬことを知るだろう。
そして、自らを利するために、他を苦しめるものは、あの世へ帰りてのち、報いを受けるだろう。
それもまた、神の子と、かみとの約束なのじゃ。

と、太郎に説明しました。

太郎は、かぶりをふって、海神に言いました。

わしは、難しいことはよくわからんがの、海の大きさの前には、わしら人間がちっぽけなのを知っとる。

わしらは海の幸を分けてもろうて、生きておる。
海で暮らすのは、命がけなんじゃ。
いつ、海の機嫌を損ねるか、わからん。
一度、機嫌を損ねたら、人間なんぞ、波に一飲みじゃ。
だから、逆らわん。
逆ろうても、無駄じゃからな。

でも、今の話を聞くと、わしの仕事は人間に、あの世があるを知らせるだけのことじゃ。
それくらいのことなら、わしでもできる。
なかなか信じてもらえんかもしれんが、十人おれば、一人くらいは信じるじゃろう。
そうすれば、わし一人で何人かの命を救うことができる。
わしは、それでええ。
それが竜宮でええ思いをさせてもろうた、わしのご恩返しじゃ。

あなた…。

乙姫がうれしそうに、太郎に声をかけると、太郎は、うんとうなずきました。

されど、どうやって、この世に戻ればええんじゃ。
ここは、あの世のどこかなんじゃろう?
わしの体はとうの昔に海の藻屑になっておろう。
ここにいるわしは、肉体を持たぬ、魂魄なんじゃろう。
なんとなく、そうじゃろうと、
わしには、わかっておったわ。

太郎がそう言うと、
海神は、にんまりと笑って、

太郎よ。
案ずるでない。
お前が元いた村に帰る手筈は整っておる。
少々、歳をとっているが、先ほど海で遭難したものがおる。
体はまだ使えるが、魂に問うと、もう肉体を去ってもいいと言っておる。
その体の中に宿り、新たな生を生きよ。
そして、多くの人間を救うのじゃ。

と言いました。

太郎は、力強くうなずくと、乙姫の方を見ました。

乙姫は、太郎の腕をとると、

使命が終わり、肉体を去られたら、竜宮にも必ず、もどって来て下さいまし。
あなたは、私ともご縁の深い方。
再会を心から待っております。
また、あなたが使命を果たされるよう、毎日、毎瞬、お祈りしております。

と言いました。

太郎は乙姫は再会を約束すると、
亀の背に乗り、竜宮をあとにしました。

太郎が意識を取り戻したとき、
彼は生まれ故郷の浜に打ち上げられていました。
自分がどういう姿になったか知りたくなり、太郎は鏡を探しました。

海神を祀る社に行くと、社の中に小さな鏡がおいてありました。
鏡をのぞくと、白髪で長いヒゲをたくわえたおじいさんの姿が写っていました。

ははあ、こりゃ、早く仕事にとりかからんと、すぐにでも、お迎えが来そうだわい。

太郎は、自分の生まれた村にもどっていきました。

そして、それから三年が過ぎ去りました。
太郎は、自分の経験を、物語にして、面白おかしく村人たちに語って聞かせました。

大人たちは、半分バカにして聞いていましたが、子供たちは熱心に太郎の話に聞き入りました。
そして、素直に、太郎の話を信じるのでした。

三年たち、自分の寿命がつきかけたのを悟った太郎は、村の一番小高い丘の頂上に祠を立てると、

津波が来たら、まっしぐらにこの祠まで逃げてきなさい。
わしの言葉を信じたものは、わしが命を救ってやろう。
じゃが、わしの言葉を信じぬものを、わしは救うことはできんじゃろう。

そう言い残して、この世を去りました。

太郎が死ぬと、しばらくして、大きな地震が起こり、太郎の言葉を信じた子供たちが、自分の親の手を引っ張るようにして、太郎の祠まで避難してきました。

そして、祠まで避難した者は助かり、あとの者は、波に飲まれて、命を落としてしまいました。

命を落とし、あの世をさまよう人々の前に、太郎の魂があらわれ、一人一人と話をし、あの世の入り口まで案内しました。

生前に、太郎の話を聞いていた者は、半信半疑ながらも、太郎の後に従い、無事にあの世の門をくぐることができました。

太郎の話を信じていなかった、または聞いていなかった者は、太郎の言葉に耳を貸さず、自分の家に帰ろうとして、この世をさまようことになってしまいました。

結果的に、太郎が救った魂は、数百人にもなりました。

太郎は、天上から、祠の前で生き残った子供たちを見て、

よいよい。
これでよい。
あとは、あの子らが新たな時代を作ってくれるじゃろう。
この世を極楽にする仕事は、あの子らに任せるとしよう。

そう言って、亀の背に乗り、
竜宮城へと帰って行きました。

竜宮城では、乙姫が、太郎の帰りを待っていましたとさ。

どっとはらい。

よっくる