ススキを愛でてぼんやりしていたら、何故か無性に茨木のり子さんの詩が読みたくなった。

約10年ほど前、彼女の詩「よりかからず」は私にとって衝撃的な出会いだった。
そうなんだ、私は自分の二本足のみで立っていても、なにも不都合はないんだ‼と思えた。


最初に彼女を知ったのは、「歳月」という詩集で、彼女が夫を亡くした悲しさや虚しさや切なさを実に上手く表現しているなぁと感動した。

「歳月」は彼女の死後に出版されて話題になった。

私と同じように夫を亡くした友人や知人にこの本を渡したこともあった。

何冊か詩集を読む中で、「よりかからず」と「自分の感受性くらい」は今も時々読み返したくなる作品だ。

初めて読んだ時は、本当にドキッとした。



「よりかからず」

もはや
できあいの思想にはよりかかりたくない
もはや
できあいの宗教にはよりかかりたくない
もはや
できあいの学問にはよりかかりたくない
もはや
いかなる権威にもよりかかりたくない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある

よりかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ




「自分の感受性くらい」

ばさばさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難かしくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ




茨木のり子さんは、2006年に凡そ80年の生涯を閉じられた。
その年は私の主人が亡くなった年でもある。