自らが生み出す演奏が
侭ならないことに
癇癪を起こして
右足で床を叩くぶうにゃん。


ドキュメンタリー番組の
一場面だ。


微かに声も聞こえる。



できなかった事ができた喜びと
同等の大きさで
できた事ができない落胆が
ぶうにゃんを襲っている。


できなくなってしまった理由も
できなくなってしまった程度も
ぶうにゃん自身が
一番良く知っているはず。



だからこその癇癪か……。



昔は
幼い子どもの
目頭と目頭を結ぶように
血管が青く浮き出ていると
癇癪持ちだと言われ
古新聞やチラシを
ビリビリ破らされた。


我がオトボケ君こと
愛息子も
未だ可愛気があった頃
この癇癪持ちの御印があり
母親に似た…と
謂れのない決めつけをされた。


今や癇癪持ちは何処
頭のネジが幾つか外れたかのような
ボンヤリさんで
此方の嫌味など
全く気にする風もない。


はて、ぶうにゃんは如何に



頭の良い人だから
一を聞けば十を知るだろう。


音符を幾つか弾けば
その日のコンディションや
出来不出来が
はっきりと見えるのかもしれない。


ましてや
感覚は思い通りにできた頃のことを
はっきり覚えているのなら
癇癪も起こしたくなるだろう。




垣間見るお写真では
いつも
止事無く微笑んでいるから
ウーーンと呻きながら
地団駄踏む姿は
似つかわしくなくて
ちょっとびっくりした。



恐らく完璧主義者で
あらせられるだろうから
思わず知らず出たのかもしれないし
常日頃から意外に
神経質なのかもしれない。




だからこその
ピアノ演奏なんだろうなあ。


芸術家の家族は
深刻に捉えていたら
身が保たないだろうなあ。


ぶうにゃんが
気持ちよく演奏できるよう
細心の心配りをなさる奥様には
心から感謝申し上げたい。


優しい癇癪持ちの
天才ピアニストでいさせてくださって
ありがとうございます…と。


私のような
ガサツ極まりなく
忘れん坊の権化には
到底できないことを
もう35年もしていらっしゃることに
ただただ感服致します。


妻よ、
貴女は
強く優しく
偉かった!