ぶうにゃんの左手は
一流女形の方のように
華奢に見える時もあれば
この道数十年の名職人のように
使い込んだ無骨な美しさを
感じる時がある。
勿論しなやかな
ピアニストらしい
繊細な動きが似合う手も
素晴らしい。
でも関節の太い
力強い
地層から鳴り響くような音を
紡ぎ出す男性らしい手も
美しい。
小柄で華奢な女性ピアニストの方が
時折腰を上げて
全身の力をかけるように
ピアノを弾く姿を見る。
あんな風に
筆圧じゃないけど
指の圧がいるのか!と
思ったけど
あの姿……
時々ぶうにゃんもなさる。
背丈は十分でも
見合う体重では
なかったのだろうか。
確かに横から見ると
薄い気がする。
腰を浮かすには
ピアノとスツールの距離が
ある程度必要だろう。
協奏曲程の長さになれば
消耗する体力も
相当だろうから
体重の力も借りねばならないか!
精密機械の頭の中では
暗譜している楽譜を捲り
身体全部で演奏するピアニスト。
もしも又
何方かのピアノ演奏を聴く機会に
恵まれたなら
ありがとう
素敵でした
どうぞゆっくり休んでください
又いつか舞台から
魔法をかけてくださいね
…と
色んな拍手をしよう。
私には欠片もない
素晴らしい才能に
心からの拍手をしよう。
いつかまた
ぶうにゃんに
ティンカーベルの魔法の粉を
舞台から振り撒いてほしいな。
職人なればこそ
安定した結果を求められる。
でも、芸術家は
一期一会や刹那の美しさを
知り抜いているから
一瞬の輝きを込めて
その舞台を務め上げるのだろう。
やはり
音楽は生きている。
二つと同じ物を作れない
器や絵画の世界に
通じている。
これも職人の粋なのかもしれない。
