
心配することなんか
まるでなかった。
ぶうにゃんの
お膝とピアノの間には
ちゃんと可動域があった。
しかし
このスーツ
だぶだぶ。
最近読んだ本に
初来日の時のお洋服は
ヨレヨレだったと書いてあった。
学生らしくて好きだな
と思った
ブレザーにグレーのスラックスだ。
どう見ても
別珍かコーデュロイに見えた。
冬物だから夏じゃないなと
思ったのに
夏だった。
一番上等な服を
選んできたのかしら?
にしても……
雪深いお国でも
暑い夏はあるだろうに
いいトコの坊ちゃんだと
勝手に決めつけて
悠々と暮らしておいでかと
思い込んでいたけれど
厳しい生活も経験してらしたのね。
で、
狭いアパート暮らしだったから
近所からの苦情が凄かったと
相成る。
ピアノを弾く姿が
あんなに
余裕綽々に見えるのに
解らないものだなあ。
でも
あのブリュートナーの
グランドピアノは
あったのね。
最近
少しずつ
知らなかったぶうにゃんの
小さなエピソードを見ると
銀のスプーンを咥えて
生まれ育ったのではないんだな…
と思う。
あの貴族的な雰囲気は
どこから漂ってきたのか?
謎多き天才ピアニスト
その名は
ぶうにゃん
……なのだ。