
珍しい白いタキシード。
夏だったのか……
大作を演奏したのか……
視線を落としたままの
長いまつ毛に隠れた瞳。
奏でている曲に
合わせて
謳っているような
お髭の下の唇。
少しパサついたような髪。
北国生まれで
北国育ちのぶうにゃん。
スキーも
怪我をしない程度に嗜むとか。
見るからに
皮下脂肪の足りない体躯。
寒さは堪えるだろう。
その分
暑さには
あまり強くはなさそう。
夏バテとか
暑気あたりなんてものに
弱そう。
それでなくても
多分
ピアノを弾くということは
重労働なんだろうな。
ソロはソロで
協奏は協奏で
体力も気力も使うだろうと
天下御免のド素人は思う。
それも
舞台の上での演奏は
練習している時より
ずっと神経質になって
緊張しているだろうから
あの額の汗も
さもありなんだ。
演奏中
楽譜を捲ってくれる方はいても
手術中のドクターのように
汗を拭いてくれる方はいない。
楽章の合間も
指揮者の判断で
間が開く時と
直ぐに始まる時がある。
ショパンコンクールの本選。
第2楽章に入る時は
汗を拭く間があったのに
第3楽章に入る時は
その時間は無く
ぶうにゃん
ハンカチも出せず
手で眼鏡の下の汗を拭っていた。
何度見ても
早く早く
と呟いてしまう。
ピアニストって
大変なお仕事だなあ。