ぶうにゃんの父上。

整った顔立ちには
顎の凹みがくっきり。

固く閉じた口元からは
本音を引き出すのが
難しそうだ。


芸術家に似合いの
薄暗い部屋には
グランドピアノの他に
時間を共にする物は
あるのだろうか?

残念ながら
もうすぐ53歳になろうかという
52歳10ヶ月で
人生の幕を引いてしまった。

ピアノに賭けた人生ということでは
ぶうにゃんと似ているけど
ぶうにゃんは
温かい家族に恵まれたらしい。

芸術家としては
ピアノ最優先の人生も仕方がないけれど
一人の息子として
夫として
父親としては
ぶうにゃんの方が
幸せだろうな。

そう思ったら
確かな遺伝子はあれど
父上とは違う人生を歩むぶうにゃんで
良かったと思う。


男性は女性より
寂しがり屋さんが
多いと聞きます。

しかも
譜面とピアノを
両手に掴んでしまったら
家族の手を引く手は
空いてはいない。

父上は
楽譜を置いた時間を
ぶうにゃんに分けてあげたのかな?

ぶうにゃんのことを
懐かしく誇らしく
思い出すことがあったかな?


最期の瞬間も
ピアノの前にいたのかな?

ぶうにゃんのピアノを
真正面で
聞いたことは
あったのかな?

ピアニストと
ピアニストとしても
相まみえたことは
なかったかもしれない。

父と息子として
心から向き合う時間は
あったかな?


似ていれば
似ているほど
寂しさが募るのかも
しれない。