こんにちは。

 

今日は前回から引き続き、ウォールストリートジャーナルからの記事の紹介です。

 

アメリカでは黒人が警官に殺される事件が続き、警察への不信感がつのっています。とはいえ警察官のお仕事というのは命をかけたハードワーク。まじめに働いている警察官の方々は、警察という一つのくくりで批判をされて報われないことでしょう。

 

そんな警察側の視点から警察のあり方を聞いています。

NYPDの歴史上、最長で長官を勤めたレイ・ケリー氏(78)のインタビュー記事の後半です。

 

ケリー氏は1992年から12年間、ブルームバーグ市長とディンキンス市長の時代にNYPDを運営し、2013年にリタイアしました。

 

以下記事の要約

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A veteran’s View of American Policing

By Tunku Varadarajan on June 12, 2020 at The Wall Street Journal

 

◉政治家からの、警察への経費削減や廃止の急激な要求について:

(ミネアポリス市議会長のリサ・ベンダー氏は議会メンバー13人のうち9人が“ミネアポリスの警察を取り壊して、コミュニティの安全を守るための新たなモデルを再建することを約束する”と言った。)

 

ケリー氏:この殺人は例外なく強く非難されるものだ。だが、警察への出資を減らすという提案は、それが警察署の排除という意味であれば、明らかにミネアポリス市は大きな間違いを犯している

 

彼らはプランなんてない。ただ警察署を排除して後から何かを作るなんて、幸運を祈るよ。もし街でトラブルになったら誰が来てくれるのか、という質問が多くの人から出てくるだろう。

 

◉ミネアポリス市長が警察官を非難させたことについて:

(フロイドの死の3日後に第3警察官区が暴徒により包囲され、“建物のシンボリズムは警察官や一般市民の命をおびやかしてまで守られるものではない。”とした。)

 

ケリー氏:最悪のやり方だ。彼は警察署を明け渡すことを許したのだ。それはその街の他の場所にも飛び火した。そして国中で暴動が起こっている。

 

◉ある政治家はゆるやかな警察への出資削減(警察署をつぶすのではなく、いくらかを他のエージェントに割り振るなど)を提案していることについて:

 

ケリー氏:街中の警官が少なくなるだろう。たとえばニューヨークの警察署のバジェットは95%が人件費だ。出資が削減されることは警官の頭数が減るということ。市民にはそれを説明しなければいけない。

 

◉ニューヨーク市長のビル・デ・ブラジオ氏は年間の予算案5.6兆ドルから1兆ドルを減らす提案をしている。ブルームバーグ氏の後任であるブラジオ氏は、「身体検査(stop-and-frisk)の誤用や濫用が危険なまでに管理不可能になってきている。」と非難していることについて:

 

ケリー氏:彼は私に反対していた。彼はこの街は人種関係は壊れているという立場だったが、今はそれが解決したとしている。人種関係はわたしが任務についていたときは良好だった。今はどうなっているのかわからないが。

 

身体検査(stop-and-frisk)はツールボックスの一つのツールだ。1週間に1回のパトロールで職務質問をするのは一回未満で、身体検査は2週間に1回あるかないかだ。

 

”Frisk”という言葉が軽蔑的な意味を持つことはわかっている。だれもされたくない。私はフィールドストップという言葉のほうが好ましいと思っている。

 

◉2013年1月の世論調査ではニューヨーク市民の75%がケリー氏を支持し、そのうち63%が黒人の投票者だった。黒人から支持を得られたことについて:

 

ケリー氏:ビジネスをするときのアプローチと哲学だよ。私は1週間に一回、1人だけ警備をつけて黒人地域を歩くことにしていた。みんな立ち止まって質問をしてきた。ハーレムでたった一つの通りを歩くだけで1時間もかかるときもあった。そうやって直接、ありのままのフィードバックをもらう方法を取っていた。

 

任期中は世界で最も多種の人種がいる警察署だった。今では警官たちの生まれ故郷は100か国以上だ。(インド系の募集アピールとして)クリケットリーグを始めたこともあったが、インドでは大ニュースになったがここでは何もニュースにはならなかったね。

 

◉アメリカでの警察とマイノリティの問題の解決法として:

 

ケリー氏:まずは、ジョンズホプキンス大学のような有名な教育機関に、見込みのある募集生たちへの厳密な心理テストの方法を考案してもらいたい。問題を雇わないようにするのだ。現在は、心の奥底に精神的な問題を抱えている警官たちを私たちは見つけだしていないと思う。

 

つぎに、言葉や肉体的に警察の権限を濫用する警官の重要な証拠を見つけた場合、その人をクビにする権限を警察署のトップたちに与えること。そのような権限乱用のパターンは、警官のキャリアを積んでいく中で急激にひどくなっていく。だが誰かを解雇するのはとても、本当にとても難しい。悪徳警官を解雇することを難しくしているのは労働組合が強いし、公務員保護の観点からするともっと難しい。NYPDでの経験からすると、解雇するためにはまず国家公務員委員会に訴えて勝たなければいけない。

 

3つ目は、大学の学位を必要条件とすること。現在NYPDでは高卒と大学の60単位(2年生大学)が必要条件となっている。ユニフォーム警官が大卒であれば、もっと人種問題にセンシティブに警官を務めると思う。これについては何年も何年も議論をかわしてきた。ある人は、大学が必要条件となるとマイノリティの志願者にインパクトを与えるというが、リサーチでは与えないだろうと示している。

 

(ケリー氏がNYPDに入ったとき)大学生だった。学士号を所得して、それから2つの修士学位と法律の学位を取った。当時はそんなに大学卒業生はいなかったから横目に見られていたね。現在ではNYPDでは30%が大卒だ。

 

◉Qualified immunity(警察官を多くの民事訴訟から守る法律)について:

(民主党からその特権を取り払う法案が出ている。)

 

ケリー氏:”qualified immunity”の終了には反対だ。もしあなたが個人的にハイリスクのビジネスに責任を持たないといけないなら、リスクテイキングは少なくなるだろう。警官でも同じだ。怠惰になってしまうだろうし、社会にとって多分悪いのではないか。

 

ケリー氏は、当時は差別的なコメントをする警官もいたが、あれから60年経った今は議論の余地なく社会は良くなってきている。

 

だが公衆の記憶はとても短い。ニューヨーク市の犯罪率はケリー氏が働き始めた30年前から比べて確実に下がっている。ニューヨーク市の人口は10年ごとに40%が入れ替わる。80年代や90年代の犯罪にまみれた時代を覚えている人はほとんどいなくなってしまった。

 

[気になる単語]

 

Brutality: 野蛮、残忍性

Deliberate: 故意の、計画的な

Atrocity: 暴虐、非道、残虐

Bystander: 傍観者

Watershed: 分水界、分岐点

Dismay: ろうばい、うろたえ

Taunt: あざける、冷やかす、なじるGoad: 追い立てる、刺激する、扇動する

Blatant: 騒々しい、やかましい、けばけばしい

Aberration: 正道をはずれること、脱線行為、一時的な精神異常

Pander: 人の弱ににつけこむ

Condemn: 強く非難する

Pejorative: 軽蔑的な

Unvarnished: ワニスを塗っていない、ありのままの

Askance: 横目で、ななめに