アアヤダの夜
(ちなみにこのタイトルは『ババヤガの夜』にかけております。ムダ?)友達に誘われて、月に二回ほど呼吸法と瞑想のオンラインクラスを受けている。先生はぱっと見そのままお坊さんになれそうな穏やかな感じの方で、その知識は一体どうすれば頭に詰まるのかと思うほど、いろんなことが普通にお話に出てくる(が、それでいて実はロックにも詳しそうなところも見受けられる)。この日、クラス始めのお話で、楽に45分座っていられるようになると、スッカなんとかという状態(哀れな生徒はすぐに詳細を忘れてしまう。スッカというのが「楽」という意味だということはとりあえず知っている)だという説明があった。その説明の前だったか後だったか、驚いたあまりそこの記憶は飛んでいるが、目の端に何か動いたのが目に入った。近頃あまりに暑いので、熱がこもる二階から階下に移動し、いわゆるリビングでクラスを受けているのだが、座った視線の先が廊下。その暗がりの廊下を、さささっとそいつは動いていった。一瞬にして固まった。出た…!いつか出るのではないかと恐れてはいたのだ。リビングの隣はキッチン。出るとすればこの近辺。けっこう既に成長しているような大きさ…ゴキ…!視界に入ったとたんフリーズ状態となるのは手のひらサイズの蜘蛛を見たときと同様。フリーズさせたいのは私じゃなくてあちらなのだが。全身硬直状態が少し溶けてから、どうすべきか迷った。声をあげずにすんだのは、クラスに入ってそれなりに心が落ち着いていたのだろうか。通常ならば、声の低い私では考えられない叫び声があがっている。この時は息をのんだだけですんだ。だが、息をのんでる間に、敵は姿を消していた。どうするべきか。すみません、と退出し、ゴキブリのあとを追うべきか。いや… 既に遅いだろう。もしかしたら先生は私が一瞬固まったのに気づいていたかもしれないが、いかに先生でも、その理由までは想像できまい。私の出した結論は、――見なかったことにしよう。――であった。見なかったことにしてもその実在は消せず、この先、(もしかして寝ている間に顔のそばをちょろちょろしてるのでは)(また遭遇するに違いない)(1匹いたらもっといるというではないか)と悩まされるのはわかってはいるのだが、結局は素知らぬ顔でクラスに戻った。知らぬが仏だ。そう、仏のままにしておいてほしかった… クモもゴキブリも、私の知らないところで静かに過ごしていてくれれば、それでお互い幸せじゃないか(いや、ゴキブリの場合、知らないうちに悪さをしている可能性はあるんだけれども)。この夜はゴキブリの祟り(いや、殺してないけど)か、それだけでは収まらなかった。クラスはたいてい瞑想からシャバーサナに入ってお休み、という流れ。この日も座って瞑想(私の場合はいまだ迷走)に入った。先生の声がかかるまでは目を閉じてその状態。…?今日は長いみたい。…ずいぶん長いみたい。45分までいくとスッカなんとかになるというお話だったから、今日はそれを目指してるのだろうか。…それにしても長くないか。こりゃスッカじゃなくてドゥッカだ(ドッカはスッカの反対。苦である。辛いのである)。ふと気づいた。もしかして、音が聞こえてない? しかし目を開けたら先生と目があっちゃったりして。と思って、またしばらく頑張った。いや、それにしても。ついにそうっと目を開けてみた。スマホの時計が2143を指していた。クラスは通常9時半まで。そしてパソコン画面は真っ暗になっていた。切れた…? 慌ててスマホでクラスに戻ってみる。他の生徒さんはすでに退席していた。幸いというかお恥ずかしいというか、先生はまだ残っていらした。慌てて説明をして謝る。先生は慌てず騒がず、優しく迎えてくれたのでした。あとで友達に聞いたところ、彼女が「シャバで熟睡しちゃってるのかな?」と言ったら、先生は「それならよかった!ぐっすり眠れてるならそれがいちばん」とおっしゃったそうな。うむ。眠れていたら幸せだった。シャバーサナで眠ってしまった、という人も割といるけれど、残念ながら、そもそも私は眠りたくても眠れないたちなのである。しかもこの日は思いがけない遭遇事件があったから、いつも以上に無理だ。びっくりが重なったから、ただでさえ寝付きが悪いのに、この日はいつもにまして寝つきが悪かった。呪われた夜だ。スッカは遠い。ちなみに、その後ゴキくんとは出会っていない…