【日本のレールガンが洋上射撃試験に成功】防衛装備庁 標的船への射撃結果を発表 宇宙開発でも活躍可能?
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レールガン 出典:防衛装備庁
11月11日に開催された、防衛装備庁技術シンポジウム2025にて「電磁加速システム(いわゆるレールガン)」の洋上射撃試験の概要と結果が発表されました。試験は2025年6月から7月にかけ、海上自衛隊の試験艦「あすか」を用いて実施され、標的船への貫通状況や発射後の弾道特性など、実運用に近い環境でのデータ取得が行われました。
電磁加速システム(レールガン)とは
レールガンは電気エネルギーを利用して弾丸を加速・発射する新しいタイプの火砲です。
砲身内の2本の「レール」に大電流を流し、弾丸とレールに電流が流れることで磁界と電流の相互作用(ローレンツ力)が発生し、弾丸を高速に加速します。従来の火薬式砲と比べ、理論上弾丸速度や運搬しうる弾頭量を大幅に増やせる点が特徴です。
陸上装備研究所のこれまでの研究では、電磁加速システムで弾丸初速が2300m/s以上、砲身寿命が200発以上といった実績を得ており、現在は連射機構や砲外での安定飛翔、実戦配備時の射撃管制など、運用に必要な技術要素の確立に取り組んでいます。
洋上射撃試験の目的と実施体制
今回の洋上射撃試験は、レールガンの早期装備化を見据えた実証試験として実施されました。主な目的は次の通りです。
- 標的船に対する被弾状況の確認
- レールガンの弾道特性の把握
- 船舶搭載時に生じる課題の抽出
試験にあたっては、陸上で試作したレールガンを洋上用に改修。砲身や本体は雨水・海水の飛沫から保護するためシェルで覆い、電源部は艦艇搭載に耐えうる補強を施した上で、海自試験艦「あすか」の後部甲板に搭載して実施しました。
実施した試験の種類と撮影・計測体制
洋上では、以下の2種類の射撃試験が行われました。
- 標的船への命中試験
曳航された標的船を目標に射撃を行い、被弾状況を船内設置カメラや評価板で確認しました。あすか上ではハイスピードカメラ、通常ビデオカメラ、さらに上空ドローンで撮影を行い、弾丸が安定して飛翔する様子を確認しています。 - 弾道特性取得試験
発射直後から着水直前までの過渡弾道データを取得するため、射角0度と45度の2条件で射撃を実施。八丈島南東方の海域で、アスカに搭載したハイスピードカメラと弾道レーダーにより飛翔姿勢や軌跡データを収集しました。
試験は野島崎南方沖と八丈島南東方の各海域で合計約1週間ずつ、2回に分けて実施されました。試験結果は以下となっています。
- 標的船への貫通確認:標的船内のカメラ映像などから、弾丸が船体に貫入した痕跡を確認。貫入痕は弾芯を後方から見た形状とほぼ一致しており、弾丸が船体に対してほぼ直線状に入射していることが示されました。
- 飛翔の安定性:あすか上のハイスピードカメラ映像から、弾丸は陸上試験と同様に安定して飛翔することを確認。
- 弾道データ取得:射角0度・45度の両条件で、発射直後からの分離・姿勢変化・軌跡に関する実測データを取得。特に45度射角での分離過程など、詳細な過渡現象が観測されました。
これらの実データにより、レールガン弾丸の実海上挙動と、船舶搭載時に想定される被弾影響や運用上の課題について有益な知見が得られたと報告されています。
今後の展望
レールガン技術は、将来の宇宙開発で「マスドライバー」として物資を電磁的に加速して射出する新しい輸送手段になり得ることも考えられます。
特に月や火星のように重力が小さい環境では無人貨物の輸送に有効と言えるでしょう。
ただし、人間が搭乗するには加速度が極めて大きく適さないため、用途は無人輸送に限定される可能性が高いです。また、長い加速路の確保、空気抵抗や熱・摩耗対策、着弾地点での回収など、依然として多くの技術的・環境的課題が残っています。
防衛装備庁は、今回得られた洋上での実データを基に、レールガンのさらなる改良・評価を進める方針です。連射化・小型高容量電源の実現、実戦配備時のプラットフォーム適合性の検証など、装備化へ向けた技術課題の解決に取り組むとしています。
今回の試験は、電磁加速技術を実海上環境で評価する重要な一歩となり、今後の研究・開発に資する知見が得られたと結論づけられました。